1982. French. 16X23inch. Folded.

■Jouineau Bourdugeとは?

 このコラージュをデザインしたJouineau Bourdugeによる本家フランス版のミニ・ポスターである。大判とは違い、小さいだけあって印刷精度は良い。個人的好みで言えば、同デザイナーによる大判はイタリア版の方に軍配を上げたものの、デザイナー名の入った本家本元も欲しいところ。というわけでミニ版を購入した。

 フランスではJouineau Bourdugeは有名なイラストレーター&デザイナーらしく、フランソワ・トリュフォー作品『野生の少年』、『アデルの恋の物語』、『トリュフォーの思春期』(この3作品のポスター柄は日本でも採用された)、ジャン=リュック・ゴダールの『ウィークエンド』などのフランス映画の他、アメリカ映画などのフランス版ポスターでも独特のコラージュ感覚を披露している。ちなみにトニー・スコットのデビュー作『ザ・ハンガー』のフランス版もこのデザイナーによるもの(日本もこれを採用)。

 しかし、手がけたポスターの数は多いものの、ネット上にはJouineau Bourdugeに関する資料は全く無い。「ジュイノー・ブールデュジュ」と発音するようだが、実はどうもこの名前、「Guy Jouineau」(ギィ・ジュイノー)と「Guy Bourduge」(ギィ・ブールデュジュ)という2人のデザイナーのチーム名らしいことが判明。確かに「Jouineau」という名前はファースト・ネームではなく名字である。
 でもなんで2人とも「Guy」なんだろう。


1982. Test print for French billboard (?). 51X37.5cm. Folded.

■幻のポスター

 フランスのミニ版ポスターには、時折『1900年』のように縦型と横型の2種類が作成されることがある(横型版のデザインはやはりJouineau Bourdugeである)。
 だが『ブレードランナー』に関しては、フランスで横型ポスターが制作されたという話は聞いたことがなかった。ただしポスターではなく、ビルボードと呼ばれる屋外用巨大看板(4mx3m以上)が横型デザインであることは知っていた。

 ここに掲載したのは、ビルボード看板用デザインの、もしくは幻となったフランス・ミニ版横型のためのテスト・プリントと推測される紙である。
 通常ポスターを印刷するような紙材ではなく、かなり厚手の紙を使っており、裁断も無造作である。印刷工場から大量に上がって来た類のものでないことは一目瞭然だ。ebayに出たのを半信半疑で落札してみたが、実物を手にして驚いた。紙質のせいもあるのだろう、上記のフランス版ミニ・ポスターよりも印刷精度がはるかに良い。
 当『ブレードランナー』コレクションの中でも最高にレアな一品。

縦3m、横4m以上はあるビルボード看板(ウェブ上の画像より)

1982. French Door Panel. 23X60 inch. Folded.

■1982年8月3日午後2時

 1982年8月3日午後2時、『ブレードランナー』上映中の新宿ミラノ座は笑ってしまうほど閑散としていた。いくら平日とは言え夏休み真っ只中のことである。
 後番組であるカーアクション物『ジャンクマン』に切り替えるべくロビーにはポスターが貼られ、正月映画の超目玉作品として公開される『E.T.』のPOPが大々的に組まれ、その夏最大の興行的失敗作にはピリオドが打たれようとしていた。

 当時、小生は高校2年生。中学生の時に『スターウォーズ』に一旦は熱くなるも、その年10年ぶりにリバイバル公開された『2001年宇宙の旅』を見てSF映画に対する考え方を一新。その翌年公開された『エイリアン』のヴィジュアルと恐怖に圧倒されながらも、多感な少年(おれのことね)の好奇心は映画よりもロック・ミュージックへと移って行く。
 カウンター・カルチャーの洗礼を受ければ当然映画を見る目は変わる(アート・フィルムやヨーロッパ映画へ)が、それでも「『エイリアン』の監督がP・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を映画化した」というニュースには仰天した。「特撮は『2001年』のダグラス・トランブルが担当した」ことや「ハリソン・フォードが主人公のバウンティ・ハンターを演じる」ことにも期待し、TVで紹介されたダイジェストの映像を見てはワクワクしたものだった。当時見たTV番組の中にはハリソン・フォードへのインタビュー映像を流したものもあり、その中でフォードは「この映画の主人公は普通のヒーローとは違うんだ」と語っていた記憶がある。

 そして夏休み中のある昼下がり、西新宿の輸入レコード店を何軒か廻った帰りに、小生はミラノ座の巨大スクリーンに映し出された『ブレードランナー』を初めて見ることになる。
 『エイリアン』に比べ、なんともバランスの悪い作品だった。中だるみと感じなくもない場面もあったし、あのハッピーエンドには「そんなバカな」とも思った。
 それでも、小生はこの映画に酔った。何もかもが新しく、美しかった。この映画で描かれた世界の住人になりたかった。そんな思いを抱かせる映画は今までに無かった。そして、興奮と陶酔を引き摺り放題引き摺りながら朦朧とした頭でミラノ座を出た時、歌舞伎町の猥雑な街並みも、西新宿の高層ビルも、それまでとは違って見えた。
 心地よい眩暈に襲われた、そんな、あの夏の日。

 珍しいフランス版の縦長(ドアパネル版)ポスター。
 通常の大判からハリソン・フォードだけ抜き出したモノ。最上部に公開日(9月15日)、その下に「6人のレプリカント云々」という気になるコピー以外、一切クレジットが存在しないのはこれがアドヴァンス・ポスターとして刷られたものであるということであろう。
 しかしこうして見るとよく判るが、実は拳銃を掲げた右腕、これ他の写真から持って来ちゃったものである。なかなかキマってるが。
 その他、上記ミニ版ともどもフランス版のタイトル・ロゴには一直線に貫いた水平のスリットが無い。タイトルに金魚の糞のように付いてる「TM」も無い。「HARRISON FORD」の後の「IS」も無い。