1982. US Preview. Rolled.


43.2X55.2cm




43.2X51.3cm

■フィリップ・K・ディックはマリ・ウィルソンの歌を聴くか?

 アメリカで一般公開前に行われた試写会用のポスターである。なんともイイ表情をしてる。この段階ではまだパブリシティ・イメージが決まっていなかったようだ。ロゴ・デザインも全く違うし「Harrison Ford」のクレジットの後は「IS」ではなく「in」になっている。『エイリアン』の大ヒット後にもかかわらず監督リドリー・スコットの名前は呼び水になることはなく、「ハン・ソロ」と「インディ・ジョーンズ」で大ブレイク真っ只中のスターが主演するという一点突破で売るつもりだったのがわかる。
 劇中、ゾラ逃走シーンでネオンサインが登場する「シュリッツ・ビール」がスポンサーとなった試写会では左側のポスターが使われ、そしてそれ以外の試写会では右のように下部を裁断したポスターが使われたようである。ちなみに、縦の長さが50.5cmの物も存在する。

 この作品が公開されるまでの紆余曲折のドラマは、96年に出版されたポール・M・サモン著『メイキング・オブ・ブレードランナー』に詳細に綴られている。企画の立ち上がりから始まって92年の『ディレクターズカット 最終版』公開まで、リドリー・スコットはじめ『ブレードランナー』に関わった多くの人々の証言を元に語られるありとあらゆるエピソードが満載。ファン必読の書である(2007年には「ファイナル・カット」のリリースに併せて改訂版が刊行された)。
 その中に書かれた大小様々の裏話でも小生をかなり驚かせたのは、「スコットは当初デッカード役にダスティン・ホフマンを想定していたこと」、「レイチェルが語る子グモが母グモを食べるのを見たという少女時代の記憶は、女優バーバラ・ハーシー(レイチェルを演じる予定だった)が提供した実話」、そして何よりも「スコットが原作者との和解の為に設定したダイジェスト版試写にフィリップ・K・ディックが現れた時、歌手のマリ・ウィルソンを伴っていたこと」である。なぜマリ・ウィルソンを・・・・。

■『チャイナタウン』と『ブレードランナー』

 ロサンゼルスの草創期と円熟期をそれぞれ描いた作品として、たびたび並べて評される『チャイナタウン』と『ブレードランナー』だが、この2作品両方に出演している俳優がいる。前者ではフェイ・ダナウェイの家の執事「カーン」を、後者ではレプリカントの眼を製造する技術者「チュウ」を演じるジェームズ・ホンである。
 中国系アメリカ人アクターとして多くのハリウッド作品に出演。デ・ニーロとデュヴァル、2人のロバートが兄弟を演じた1981年の作品『告白』(かの有名な「ブラックダリア事件」を思わせる内容)や、『チャイナタウン』の呪縛から逃れられないジャック・ニコルスンが自らメガホンを採って描いた続編『黄昏のチャイナタウン』にも出演し、「ノワール系中国人」という印象がどうにも植え付けられてしまった。