1982. Spanish International 1sheet. 27X41inch Folded.

■ブライアン・フェリーと立花ハジメ

 今でこそ『ブレードランナー』に影響を受けたことを明言する文化人やクリエイターは多いが、初公開当時にTVなどのメディアでそのような発言をする人物は決して多くなかった。小生個人が「あの人は早かった」と記憶しているのは、ミュージシャンのブライアン・フェリーである。

 1983年初頭に自身のバンド、ロキシー・ミュージックのワールドツアーで来日したフェリーは、TV番組「ベストヒットUSA」に出演した際、番組ホストである小林克也から「最近刺激を受けた映画やアートは?」という質問を受け、「『ブレードランナー』が良かった。物語に感銘を受けたと言うよりも、あの作品のムードが素晴らしい」というような発言をしていた。
 1985年、ブライアン・フェリーは12inchシングル「Don't Stop The Dance」をリリースするが、これのB面に収録されたインストルメンタル曲「Nocturne」は、その時の発言を裏付けるかのような曲だ。シンセとピアノのムーディなフレーズが即興的にたゆたうその官能的な曲は、『ブレードランナー』のサウンドトラックかと思わせるほどである。

 日本では、坂本龍一が1986年にリリースしたアルバム「未来派野郎」のオープニング曲「Broadway Boogie Woogie」で、サンプリングされたデッカードとレイチェルのセリフおよびOff Worldの広告音声が使用されているのが有名だが、それよりも早く1984年、グラフィックデザイナー兼ミュージシャンの立花ハジメが「Mr.TECHIE & MISS KIPPLE(テッキー君とキップルちゃん)」なるアルバムを発表している。
 「キップル」とはフィリップ・K・ディックによるこの映画の原作小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に登場する造語(「役に立たないもの」という意味)であり、このアルバムそのものがディックのSFが持つ世界観をコンセプトに作られたものである。
 オープニング曲の「REPLICANT J.B.」は立花曰く、「未来世界では壁掛けテレビがあって、そこにはレプリカントのジェームズ・ブラウンが映し出され、こういう曲を演奏している」という設定のもと作られた曲だ。
 このアルバムのリリース当時、立花ハジメはとあるラジオ番組で「The Three Suns」という1940〜50年代のランチタイム・ミュージック・バンドの曲をかけ、「『ブレードランナー』にはヴァンゲリスなんかじゃなくてこういう音楽の方が合ってる」と発言している。
 そんな的外れな発言はさておき、立花による「『ブレードランナー』大好き宣言」は、日本の業界人の中では非常に早かったのではないか。

 このポスターはスペイン版ではなく、「スペイン語圏版」である。つまり、アルゼンチンをはじめスペイン語を公用語としている中南米の国々での使用を目的として制作されたもの。
 日本版・ドイツ版と全く同じデザインだが、ハリソン・フォードの名前とタイトル文字は、フォードの頭の上にドーンと乗っかっているそれらと異なり、US版に倣って下部に配置。イメージ部分のトリミングもわずかに異なっている。
 こうして見ると、フォードの頭の上が少々間抜けなことに気付く。ちょうどこの部分にタイトルをはめ込むように、そもそもデザインされたのであろう。だから、このデザインで最もしっくり行っているポスターは、当然のことながらオリジナルである日本版ということになる。