1982. US 1 Sheet. 27X41inch. Rolled.

■革命、ウィルス

 『エイリアン』から3年、リドリー・スコットはまたしてもSF映画の流れを捻じ曲げる作品を作り上げた。
 2019年のロサンゼルスを舞台に、地球に不法侵入したアンドロイド=レプリカントたちを追う捜査官の姿を描いたハード・ボイルド。フィリップ・K・ディックの名作SF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が原作である。
 そこに繰り広げられた世界観、息を呑む映像の数々は後の映画・文学・音楽クリエイターの間へとウィルスのように浸透し、数限りない亜種を生み、21世紀を迎えた現在でもそれは駆除不可能である。
 『エイリアン』が「モンスターSF」という分野においてそうだったように、『ブレードランナー』は「未来世界モノ」における真の「革命」であった。
 SF映画史を語る時、<『ブレードランナー』以前・以後>という区切り方は不可避である。

■初公開時は大コケ

 しかし誰もが知っているように『ブレードランナー』は初公開時世界的に大コケした作品である。
 特にアメリカでは『E.T.』の後に封切られた為、制作費の半分も回収出来ないほどの大失敗作になってしまった(しかも翌年、アカデミー視覚効果賞すら『E.T.』に奪われるという「珍事」まで起きている)。
 日本では夏休み映画として7月に公開されたものの、やはり一般客が足を運ぶようなストライキングな作品になり得なかったが、それでも打ち切りにならずに8月後半まではロードショー公開されていた(不入りのため上映が打ち切られたという説があるが実際はそんなことはなかった)。

 そして一旦は消え去ったこの作品が復活を遂げるのはVHS市場が急速に拡大した80年代中盤以降であった。あちらこちらで作品論が語られ、興味深い制作裏話が発掘され、「早過ぎた傑作」としての評価は高まるばかりだった。
 険悪な撮影現場(ハリソン・フォードは長年この作品について語ろうとしなかった)、少ない予算(脚本は大幅に削られビルやネオンのミニチュアは並べ替えて使い回された)、そして悪名高きハッピー・エンド(『シャイニング』の空撮フィルムを無理矢理くっ付けた)と投げ遣りで説明的なナレーション(フォードは最後まで嫌がった)などなど、大小様々なエピソードは伝説となり、『ブレードランナー』を神格化することに一役買った。「カルトムービー」という言葉が一般化したのもこの作品によってだと言えるだろう。

■「人類は自分たちにそっくりなものを作った・・・それは厄介なやつだった」

 古いパルプ・マガジンの表紙を彷彿とさせるオールド・ファッションなポスターが『ブレードランナー』のメイン・ヴィジュアルである。拳銃を握るタフガイと煙草をくゆらす美女。このイラストを見れば、この映画が未来を舞台にしたフィルム・ノワールであることは一目瞭然だ。
 描いたのは映画ポスター界のトップ・アーチストの1人であるジョン・アルヴィン。ハリソン・フォードもショーン・ヤングも今ひとつ似てないのが玉にキズだ。それにルトガー・ハウアーも描かれていない。
 そんな不満もあって、このポスターを入手するのはUK版やオーストラリア版よりも後になってしまった。あくまでも初公開時の本国版という存在意義だけで入手してみたのだが、やはり実物を見るとアルヴィン・アートも悪くない。徐々に愛着の湧いたポスターである。

 US1シートは大変人気があり様々なポスター本にも紹介され、当然ながら大量のリプリントや贋物が出回っている。小生の所有する3枚はいずれも細部に違いが認められる。いったい本物かニセモノか・・・・まったく「VKテスト」を試したいところである。世界的に有名なディーラー、Bruce Hershensonから購入したこのポスターだけは本物と信じたいが、残念ながら確証は無い。