BROTHER
『BROTHER』(2000年)

2001. British Quad. 30X40inch. Double-sided. Rolled.

■ヴァイオレンスし過ぎでまったくOK!

 演出も音楽も過剰でほとんど見るべきところの無い擬似父子ロードムービー『菊次郎の夏』の後、持ち前の「振り子」でたけしはこちら側に戻って来た。
 日本にいられなくなったヤクザがかつての弟分のいるロサンジェルスに渡り、ストリートギャングとのいざこざから現地の大物ギャングとの抗争へと発展し自滅していくという、なんだか『ソナチネ』を想起してしまうようなストーリー。だが、いいのだ、それで。可愛さを失くしたたけしに似合うのは、やはりこの作品の「疫病神」のようなヤクザなのだから。

 『キッズ・リターン』以降、撮影・編集・音楽・演出全てに渡って、どうにもこうにもやり過ぎ感が作品のクオリティを下げて来たが、今回のやり過ぎはOK。「ヴァイオレンス」だからだ。
 海外市場へのあからさまなアプローチととれる派手な銃撃シーンや指詰めやハラキリ。タイトルであるところの(ホモセクシュアルの匂いを漂わせた)アニキというフレーズに、東映のヤクザ物にリスペクトしたかのような義侠心。嫌いな人間にはとことん嫌いな類の作品だろうが、あまりのやり過ぎ感に小生はゾクゾクしてしまった。
 『3−4X10月』『ソナチネ』が言わば「脱力系ヤクザ」を描くことでアート志向であったのに対し、『BROTHER』は完全にエンターテインメント志向。今まで意識的に避けて来たと思われる、渡哲也やかたせ梨乃といったメインストリームのヤクザ映画の大物、それに加藤雅也という「ニュー・ヤクザ物」の俳優までをも積極的に起用した判り易いキャスティングにその意欲が見えるし、持ち前の退(ひ)きと省略が生むアクションシーンのリズムにケレン味が加わったことで、アメリカ映画には無い、不思議なダイナミズムを感じさせるヴァイオレンスを勝ち得たように思う。ロサンジェルスの空気感も上手く作用した。
 そして、何よりも役者=たけしが良い。もう可愛くも何ともない顔には「ふてぶてしさ」と「ニヒリズム」と「空虚」だけが混在し、疫病神然とした佇まいにはそれまでの人生でたけしが潜り抜けてきたであろうデンジャラスな暗黒面を重ねざるを得ない。
 そして、先手先手の傍若無人な銃撃、そのあまりにもな<外交>っぷりが見る者を唖然とさせながらも魅力的なのは、渡航先であまりにも矮小に見える多くの奥ゆかしい日本人へのアンチテーゼとして映るからであろうか。
 こんな日本人、外国で見たことない、というやつだ。

 シンプルなイギリス版ポスター。左端の寺島進が超イカしてる。本編でもかなり重要な位置にいたっけ。
 2001年2月にロンドンを訪れた際、ソーホーにあるショップFlashbacksで「北野武のポスターは無いか」と尋ねたところ、店主が「これから公開されるんだ」と引っ張り出したのがこれだ。
 「『HANA-BI』のポスターはどうだ?」と薦められたが、「あの作品は好きじゃないんだ」と答えたら、「なんで?良い映画じゃないか」と不思議そうだった。ま、そういうものか。