THE CONVERSATION  
 『カンバセーション・・・盗聴・・・』(1974年)

1974. US 1 Sheet. 27X41inch. Folded.

■素晴らしきかな、憂鬱

 2つの『ゴッドファーザー』の間に撮られたこのコッポラ作品は小品ではあるが今だ色褪せない社会派サスペンスの名編だ。業界からも一目置かれている盗聴屋のカリスマ、ハリー・コールが深入りしてしまった事件は彼のアイデンティティを揺るがす事態に発展する。

 アメリカン・ドリームの終焉、ベトナム戦争後の倦怠感、都市生活の孤独、人間性の空洞化等をベースに描かれる主人公ハリーの苛立ちと葛藤。そして彼はモラリティ、信仰、プロ意識の間で揺れ動きながらどんどん孤独になり、謀略の渦へと巻き込まれて行く。
 『フレンチ・コネクション』『ポセイドン・アドベンチャー』『スケアクロウ』と黄金時代の真っ只中にあったジーン・ハックマンの、抑制の効いた地味な演技が逆に異様な迫力をもたらした。そしてその心理状態を完璧に表現し切っているのがデイヴィッド・シャイア(制作当時は女優タリア・シャイアの夫、つまりコッポラの義弟)によるスコアだ。エリック・サティを更に暗くジャジーにした感じのピアノソロ、眩暈を誘う不協和音、メランコリックなムード。
 大抵の場合、サウンドトラック盤というものは映画の場面を思い出させるが、この『カンバセーション』のサントラはちょっと違う。D・シャイアによるニウロティックな旋律が頭の中で鳴り響くやいなや、小生は「ハリー・コール自身」となり、そしてハリーの目で世界を見ることになる。大げさなようだがこれホント。

■『エネミー・オブ・アメリカ』へ

 ラスト、自分の部屋が盗聴されてることが判り、狂ったように盗聴器を探した後、床も壁も剥がして廃墟のようにしてしまった部屋で1人サックスを吹くハリー・コール。無表情にパンを繰り返すカメラはまるで「監視カメラ」のようだ。
 来るべき「個人情報漏洩社会」を予見したこの作品は、カンヌ映画祭でグランプリを受賞。そして98年のトニー・スコット作品『エネミー・オブ・アメリカ』でジーン・ハックマンは「その後のハリー・コール」のような役を演じることになる。パソコンのモニターに映し出されるこの人物の若い頃の写真は、なんと『カンバセーション』から借用したものであった。