CURE
『キュア』(1997年)

2001. US 1 Sheet. 27X40inch. Rolled.

■あんたの話が聞きたいな

 『羊たちの沈黙』の大ヒット以降、映画・テレビ・小説にと所謂「サイコスリラーもの」が溢れ返った90年代。みな「どこかで聞いたことのある話」だったり「ハリウッド作品のあからさまな真似」だったりして、空回りする作品が多く失望させられっ放しだったところに登場したこの『キュア』は衝撃的であった。
 黒沢作品の持つ独特の「間合い」が巧みに緊張・不安・恐怖を高め、異様な建物やセット・美術を得てサスペンスフルな空気は一時も緩むことがない。
 記憶を失くしているように見せてその支離滅裂なセリフで人々の苛立ちを煽り、催眠術を用いて絶妙のタイミングで潜在的な憎しみを引き出し殺人を誘発する犯罪者=萩原聖人と、精神を病んだ妻を抱え私生活では疲労の極みに至りつつ連続殺人事件を追う刑事=役所広司。日常での小さな諍いから自分でも気付かないうちに膨れてしまう憎悪を、理性の抑圧から解き放って(つまり殺人)やることでその人物を「CURE(治療)」する「伝道師」が最後に癒す患者は当然この刑事である。
 そしてその先に待ち構える新しい涅槃。黒沢清はこれ以降、事あるごとに、スケールの大小様々な治療のフィールドを映画で開拓して行く。

 海外版ポスターではカンヌ映画祭に出品された際のフランス大判ポスターとこのUS版が確認されているのみ。右上部にあるのは某所でお会いした折に頂いた黒沢清監督によるサインである。
 その時の監督の弁。「ああ、これがアメリカ版か。これじゃあ萩原くんが主演みたいだよね。どこで手に入れたんですか?僕も持ってないのに」・・・・とても人当たりの良いハンサムな監督さんでした。



2001年11月某所にて。