DZIEN SZAKALA (THE DAY OF THE JACKAL)
『ジャッカルの日』(1973年)

1973. Polish. 23X33inch. Rolled.

■このポスター、ネタバレ?いや、いいのか

 フレデリック・フォーサイスのベストセラー小説の完全映画化。1963年、シャルル・ド・ゴール大統領の暗殺を画策するフランス軍秘密組織OASが雇った国籍不明の殺し屋、暗号名=ジャッカル。ウィーン、ロンドン、ジェノバと、偽装パスポートを使い転々と移動しながらパリ解放記念広場での暗殺決行へとひた走るジャッカルと、どこの誰とも判らない暗殺者を必死でつきとめようとするフランス政府・パリ警察の緊迫した2ヶ月の追跡劇を、クールに、ストイックに、ドキュメンタリーのようにリアルに描いた「70年代国際謀略映画」の金字塔である。

 痩身のイギリス紳士エドワード・フォックス扮するジャッカルがなんとも美しい。感情を表さず、淡々と仕事をこなして行く彼の行動は、機械のようにムダが無く完璧だ。
 ジェノバで特別に作らせた狙撃銃はそれを使う者にそっくりである。松葉杖に隠すため限界まで細く軽く作製され、弾丸を1発ずつしか込められない、異形の銃。余計なパーツをそぎ落とし、発射された弾を確実に標的へと送り込むためだけに存在する精巧極まりない装置。
 郊外の森へ行きスイカを標的に試し撃ちをするシーン(暗殺はもちろん失敗するので、この銃の威力を目に出来る唯一の場面だ)で見せるジャッカルの職人ぶり。木から吊るしたスイカ(人間の頭の大きさ)を撃ちながらスコープを微調整し、最後は破裂弾を込めて粉砕する。まるで教育科学番組のように冷徹な一連の描写は、戦慄を覚えると同時にうっとりするほど美しい。

 一方、ジャッカルを追う捜査陣の責任者、ルベル警視を演じるのはミシェル・ロンズデール。やはりジャッカル同様クールな頭脳派だが、少々ユーモラスなたたずまいとショボくれたパリジャンぶりが好対照だ。『007ムーンレイカー』の悪玉のボスを長い間記憶していたが、スピルバーグの『ミュンヘン』で久々にロンズデールの姿を目にした小生は、すぐさま『ジャッカルの日』を思い起こしたものだ。『ミュンヘン』という作品自体が『ジャッカルの日』へのオマージュとも言える内容であった。ただし、あちらの暗殺者は国籍不明でもプロでもクールでもなく悩みまくりだったが。スピルバーグは偶然TVで『ジャッカルの日』を再見してロンズデールの起用を思い立ったという。

 解放記念日当日、人ごみを歩きまわりながらジャッカルに目を光らせるルベル警視と、裏をかくように狙撃ポイントへと急ぐジャッカル。エキストラを使い実際の場所でロケしたショットと、記念式典の記録フィルムを巧みに混ぜ合わせたこのスーパー・リアルなクライマックス(盛り上げる音楽も一切無い)は、1977年の『ブラック・サンデー』でもその方法が再現された。と言うか、『ブラック・サンデー』は『ジャッカルの日』の完全な影響下にあると見ていいだろう。
 結局暗殺は失敗(ポスター画像参照)、2発目の弾を装填しているところへ踏み込んだルベル警視によってジャッカルは射殺される。機関銃で撃たれたジャッカルがふわりと後方へ飛び壁に叩きつけられて絶命するショットから、続くジャッカル埋葬に1人立ち会うルベル警視をとらえたラストシーンへと至る、呆れるほど淡々とした流れには思わず言葉を失ってしまう。
 ルベル警視のモノローグ・・・・一体ジャッカルとはどこの誰だったのか?これに似たセリフで終わる映画がある。同時期に制作された『ラスト・タンゴ・イン・パリ』である。アメリカ人の中年男マーロン・ブランドを射殺したマリア・シュナイダーは、肉体関係にあったにも関わらず「あの男の名前も知らない。全く知らない男だわ」とつぶやくのだ。

 ジャッカルの瞳にド・ゴールの姿が映り込んだクローズアップをイラストで描いたUK版ポスターにそそられたが、ここはあえてポーランド版を購入した。ポーランドの映画ポスターは内容を伝える気が無いのではないかと疑いたくなるほど独創的過ぎるデザインが多いのだが、この『ジャッカルの日』は逆に的を射過ぎていて苦笑してしまう。ネタバレだろっ、とツッこみたくなるが、まあド・ゴール大統領が暗殺された事実は無いワケで。