1989. UK 1 Sheet. 27X40inch. Rolled

■精神的怪物(畸形)

 80年代半ばを過ぎホラー映画ブームは一旦収束に向かう。それと同時にクローネンバーグも「プリンス・オブ・ホラー」という冠を脱ぐことになる。どこか垢抜けないが風変りで気味の悪いヴィジョンを持ったSF&ホラーの作家が、それまで売り物にしていた派手な特殊メイクや造形を使わない作品へとシフトした時、そこに立ち現れたのは人間存在の深みへと果敢にダイヴする哲学者の姿であり、彼によってもう1つの現実を与えられた「精神的怪物(畸形)」たちの物語であった。
 外界を拒絶しドラッグに溺れ衰弱していく双子が、腐ったケーキで自分達の誕生日を祝う場面は涙無くしては見れない。そしてこの異形の物語を美しく締めくくるのはオープニングと同じバロック風テーマ曲であり、エンドロールの最後にせり上がって来るのは、子宮内の双子を描いた銅版画である。クローネンバーグの新時代を方向付けた、彼のフィルモグラフィ中重要な位置を占める特別な1本。

 US版の着色バージョンとでも言うべきか。この映画における最も強烈なイメージが「赤」であるからには、ポスターにもこのくらいはぶちまけて欲しいものだ。タイトル・ロゴなどにも大きな変更を行っている。こちらのUK版の方がよりこの作品らしいポスターである。


イギリスの配給会社「Rank Film Organization」が制作した広告



 『戦慄の絆』は当初このようなタイトルで企画され公開される予定であった。
 アーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デビート共演作品と同じ題名だったことから、監督のアイヴァン・ライトマンからクレームが付き変更されたという。
 ‘Ringer’とは「瓜二つ」とか「替え玉」とかいう意味。結果的に『DEAD RINGERS』というタイトルは‘Dead’という言葉が入っていることでクローネンバーグも気に入ったようである。