Diary

■2005年9月

05.09.27

■バック・トゥ・80s

『ランド・オブ・ザ・デッド』
 ゾンビ映画のオリジネイター、ご存知ジョージ・A・ロメロ御大が久々に腰を上げて王者の貫禄を見せ付けた。『28日後・・・』のエッジーなゾンビ演出を見た後ではどこか「牧歌的」ですらあり、あまりにもな80年代ホラー風味に「これって本当に21世紀の作品なのか」と妙な気分になるが、全くOK!街の支配構造に現在のアメリカをダブらせる反骨精神にはジョン・カーペンターと同じスピリットを感じるし。今時こんな作品が成立するアメリカ映画界も捨てたもんじゃないな。個人的には「ナチュラル・ボーン・チンピラ顔」=ジョン・レグイザモを久し振りに堪能。


■コンピュータに「使われた」映画

『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』
 実は『エピソード2』を見ていない。『エピソード1』のあまりのつまらなさに見る気がしなかったのだ。周囲では「『2』は面白いんだよ!」と言う声もあれば「つまらくて集中出来ずに15分ずつ細切れで見た」という奴もいた。だから何も『エピソード3』を見なくてもよかったんだが、77年の1作目に繋がるパートでもあるしあまりにも周囲に見ている人間が多いので会話に入れるようにと軽い義務感もあって見ることにしたわけだ。
 ほとんど記憶に無い『エピソード1』と欠落している『エピソード2』のことを全く気にせずに見れた。誉めているのではない。キャラクターに魅力が無いから気にならなかっただけだ。デジカメ撮影による過剰にブライトで陰影に乏しい画面のせいか、あれだけのスターを使っておきながらまるで「テレビドラマ」を見ているようだ。
 そして観客の動体視力を無視してこれでもかと詰め込みまくったCG画面。CGによるSFXに非を唱えるわけではない。画面上の力点の問題だ。どこにウェイトを置いてどう見せればアクションが機能しダイナミズムが生まれるかを考えてないとしか思えない。要するに一度にあまりにも沢山のものが動き過ぎるからどこを見ていいのか判んないのだ。ただし凄く良く出来てはいるが。つまりこういうのを、コンピュータを使ったのではなくコンピュータに使われた、と言う。見ていて何の興味も湧かないつまらない登場人物と完璧なCGワークという合わせワザ。ゲームソフトのムービー画面まであと一歩だぞ(と言ってはゲームクリエイターに失礼か)。
 他にもまあ色々言いたいこともあるが最後に1つだけ。ジョージ・ルーカスはプロデューサーであって監督ではないね。なので、今後黒澤明へのリスペクト発言はやめていただきたい。
 ちなみにこのシリーズ、どれが好きかと言えばやっぱりアーヴィン・カーシュナーが監督した『帝国の逆襲』。『ロボコップ2』でも良い仕事してた、あの人。


■みんなティム・バートンをお好き?

『チャーリーとチョコレート工場』
 『猿の惑星』と『ビッグ・フィッシュ』が楽しめなかった小生としては『スリーピー・ホロウ』以来久し振りにバートン作品を楽しんだことになる。クソ生意気なガキどもをいたぶる映画。チョコレート工場の入り口でグロテスクに焼けただれる自動人形からしていい感じ。小人たちの歌と踊りやくるみ割りをするリスちゃんの大群などバートンならではの目くるめく悪夢の宇宙。だが何と言っても、「ネバーランダー」を彷彿とさせるジョニー・デップが最も怖ろしい。笑えねーよ、もう。
 楳図かずおの『まことちゃん』がギャグ漫画ではなくホラー漫画だったように、この映画の笑いは恐怖を内包している。ティム・バートンならこれくらいはお茶の子サイサイだろうね。「父と息子」とか「家族」は余計か。いや、バートンは丸くなったんだよね、ホント。みなさんはバートン作品の中で何がお好きなのだろうか。小生は『バットマン・リターンズ』だな。頭のおかしい人しか出て来ない凄まじい作品だった。
 そう言えば、実写版『エヴァンゲリオン』で神木隆之介くんが「碇シンジ」なら、「アスカ」はあの金髪おかっぱ頭の女の子に決定。


05.09.14

■映画ポスターの本

 世界中のコレクターの間で一目置かれている映画ポスターのギャラリーがロンドンにある。「THE REEL POSTER GALLERY」である。小生は5回もロンドンを訪れたことがあるくせに実は1度も足を運んだことが無い。何故か。それは「怖ろしく高いから」である。お時間のある人は是非ウェブカタログで価格を確かめてみて欲しい。70年代までのいわゆる「ヴィンテージ・ポスター」で400ポンド(約8万円)以下の物は無いんじゃなかろうか。あまりにも高価な物については「要問い合わせ」と価格の掲載をやめている。90年代以降の物でも「マジすか?」という値段が付いている。以下、「POSTER-MAN」で見ることの出来る主なポスターの価格を並べてみる。

『カンバセーション・・・盗聴・・・』 350ポンド(約7万円)
『地球に落ちて来た男』 275ポンド(約5万5千円)
『ブルー・ベルベット』(UK版) 300ポンド(約6万円)
『裸のランチ』 225ポンド(約4万5千円)
『レザボア・ドッグズ』(US版) 450ポンド(約9万円)
『トゥルー・ロマンス』 225ポンド(約4万5千円)
『パルプ・フィクション』 300ポンド(約6万円)
『ファーゴ』 225ポンド(約4万5千円)
『セブン』(USアドヴァンス版) 150ポンド(約3万円)

などなど・・・・ここに挙げた全てを「THE REEL POSTER GALLERY」で買ったらなんと50万円である!うひゃあ〜っ!当然、アメリカン・ニュー・シネマやヌーヴェル・ヴァーグの名作たち、『2001年宇宙の旅』など映画史に名を残すような60年代作品のポスターは価格を公表していない。交渉次第であろうが10万円以下で買える値段であろうはずがない。こうなるとこれはもう立派な「画商」である。一体どの程度のペースで売れるのだろうか。ここのオーナーTony Nourmandはこれで食べて行けるのか。いくら古い物好きのイギリスとは言えこのべらぼうな値段の付け方はどうなのだろう。
 そんなTony Nourmand監修の下コンスタントに出版され続けているポスター本の最新刊『Film Posters Of The 90s』が刊行された。オールカラー120ページ以上に渡って世界中から集められた美麗なポスターの数々が楽しめる。コレクター必携の資料であるだけでなく、映画ポスター史の変遷を知ることで映画史をも見渡せるという、一般の映画ファンにとっても意義ある好企画である。ギャラリーのコレクション(というか売り物)からの出典がほとんどで、Nourmand氏のコレクションポリシーが伺える。
 今回の「90s」には『タイタニック』や『マトリックス』などのビッグ・タイトルが並ぶ。印象としては「アメリカのポスター・デザインはどんどん軽くなってる」ということ。ポスターが軽ければつまり作品そのものが軽いということだ。「ブロック・バスター」作品のポスターは主演スターをデカデカと配したいかにも大量消費型の凡庸なデザインが多く、この先何年も語り継がれるような名ポスターは残念ながらめっきり減ってしまった。
 そんな中ひときわ眼を引くポスターは、1996年に亡くなった名デザイナー、ソール・バスがデザインした『シンドラーのリスト』のポスターだ。初めて眼にした素晴らしいデザインで、どうやらボツになったもののようだ。デジタル時代突入期にあってやや古い印象があるが、かつて『めまい』や『ウェスト・サイド物語』などで突出したグラフィック感覚を誇っていたソール・バス御大、最晩年のポスター・ワークとしてはかなり重要なはず。
 そしてこの本の中で、「90年代最高のポスターはこれ!」と言いたいのはやっぱり『裸のランチ』と『ファーゴ』ね。手前味噌ですが。


05.09.11

■「神木」ってなんだかすごい苗字だなあ

『妖怪大戦争』
 子供の頃にテレビで見た大映の『妖怪大戦争』は西洋から来たダイモン(デーモンのことか)と日本の妖怪たちとの戦いを描いた楽しい作品だったが、今回の『妖怪大戦争』は人間の出した廃棄物を魔物に変えて東京を壊滅しようとする魔人=加藤保憲(何故って荒俣宏が原作だから)と日本古来の妖怪たちとの戦いを描いたものである。
 主人公のヒーローを演じる神木隆之介くんの演技が凄すぎ。両親の離婚で母親の田舎に連れて来られちゃった少年の孤独感を、1人で食事の支度をする時ポロリと流す涙ひとつで完璧に表現出来てる。可愛くってもうおじさんすっかりツカまれちゃった。『初恋のきた道』でチャン・ツィーイーを初めて見た時を思い出したよ。彼の演技力の確かさを牽引力にして、あとはどんな荒唐無稽な展開を見せても大丈夫だった。今12歳だからあと2年後に彼を「碇シンジ」にすれば『新世紀エヴァンゲリオン』を完璧に実写化出来ると確信する。
 あとは宮迫博之ね。『蛇イチゴ』『下妻物語』『姑獲鳥の夏』・・・・映画の良し悪しはともかく宮迫だけは素晴らしい仕事をし続けてる。彼のクドい顔と味わい深い演技は時として作品にスケール感さえ持たせる。これから日本映画界のトップ俳優になるんじゃないか、と本気で思う。宮迫博之とピエール瀧は。
 それにしても栗山千明は面白い顔だな。でもケツは良かった。見とれたよ。
 三池崇史持ち前のエンターテインメント魂が妥協することなく炸裂した傑作。水木しげる・京極夏彦など妖怪をこよなく愛する者たちが発信した『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』への回答か。


■やっぱりモンティ・パイソンだったか

『銀河ヒッチハイク・ガイド』
 オープニングでかかるイルカの歌からして「これってモンティ・パイソンのセンスだよなあ・・・」と思ってたら案の定、原作者は『フライング・サーカス』の脚本を書いてた人だったらしい。だからギャグのセンスは小生好みだしとにかく笑った。でも予想していた内容と大分違ったんだよなあ。宇宙一のベストセラー「銀河ヒッチハイク・ガイド」を使って様々な宇宙人の船をヒッチハイクしながら色んな星を巡るのかと思ってた。ところが肝心の「ヒッチハイク・ガイド」は「ヒッチハイカーへの指南書」ではなく「宇宙のうんちく本」だったのだ。いちいちオシャレなアニメで見せてくれる宇宙うんちくの数々は楽しいのだけれど、主人公たちがヒッチハイカーらしく親指を立てるシーンは最初の1回だけ。何か違うんだよなあ。ひとつ売りになってる「地球誕生の秘密」ってのもちょっと期待はずれ。後半は笑いのテンションも下がっちゃったよ。いや、決してつまらない作品なんかじゃない。単にこちらの期待が大き過ぎただけ。
 しかし、大統領役がサム・ロックウェルだったとは最後まで判らなかった。あれはオーウェン・ウィルソンあたりにやって欲しかったね。あと、後半登場するある重要キャラクター(演じるのは『アンダーワールド』で吸血鬼の長老やってた人)をパイソンズのマイケル・ペイリンが演じてくれたら、期待はずれどころじゃなく大感涙だったはず。
 「ウハウハ笑えてなおかつSFとして一流」という点では『ギャラクシークエスト』に及ばず。ただSFXは素晴らしい。ジム・ヘンソンの工房によるクリーチャーも最高。


05.09.05 ■寒くない南極

『南極日誌』
 南極到達不能点を目指す韓国人探険家チームが拾った物、それは80年前同じように到達不能点を目指したものの遭難してしまったイギリス人チームの日誌であった。そして不思議な現象や死人が出始め、チーム内に狂気と人間不信が渦巻き出す・・・・と書くとなんとも面白そうな話だ。『シャイニング』『遊星からの物体X』など極寒の中で狂い自滅していく人間達を描いた過去の傑作を狙ったのがありありと判る。しかしこれが全くいただけない。南極にロケせずにCG映像を使うのは別に構わない。だが眉毛や髭が凍っているのに吐く息が白くないのはどうしたことか。こういうところで手を抜くと一発でリアリティを失いサスペンスは空回りすることになる。目的地にたどり着けず消耗していく男達にも「だって寒そうじゃないじゃん」というだけで同調不可能。これは致命傷だ。さらに脚本がヘタ。隊長の抱える過去の傷と南極での狂気がちっとも整合しない上に、くだらない心霊現象場面やコケおどし的なショットを挿入してしまったから、物語が安っぽくなっただけでなく展開が「???」でまるっきり判らない。ラストシーン、ありゃ一体なんだ?ワケわかんねー韓国ホラーの見本だな。ソン・ガンホなんか使ってもったいないなあ。ただ一点、川井憲次の音楽は良かった。押井守作品で聴かせてくれたのと全く変わらないスコア。『アヴァロン』にそっくりの曲もあったし。それでもOKだっ!

 というわけで口直しに昨年のベスト映画『殺人の追憶』を見直す。むむ・・・・もう最高だな。やっぱりソン・ガンホはこうでなきゃ。クライマックスでボロ泣きだよ。見れば見るほど評価が上がる作品だ。そのうちポスターを購入してちゃんと書こう、これは。
 

■ダンカン初監督作品

 『七人の弔』
 ある組織が主催するサマーキャンプに参加した7人の子供とその親達。表向きは和気あいあいだがその実、虐待や借金苦などワケありの親達が子供を臓器の密売業者に売り渡すためのものであった。なかなか面白味のある話だが詰めが甘い。キャンプの引率者を演じるのがダンカンだが、これはミスキャスト。ここはやはり寺島進あたりをキャスティングして(バックについてるのがヤクザなんだし)、ダンカンは子供を売り渡す親をやるべきだった。そうすることで親達のブラックな空気がもっと濃密になったはず。それにしても虐待母を演じた「いしのようこ」(現在はひらがななんだな、この人)の老けっぷりに仰天。ダンカン、実は映画より舞台のほうが向いてるかも知れないな、自分で演出するなら。そんな気がした。

■こりゃへこむ

『ヒトラー〜最期の12日間〜』
 ベルリン陥落を目前にしたナチス中枢部をヒトラーの女性秘書の目から描いた大作。作られるべくして作られた「ドイツ映画」。優れた演技力と深い人間味でヒトラーに成り切ったブルーノ・ガンツにまずは拍手。かつて『ブラジルから来た少年』でローレンス・オリヴィエ演じる「ナチスハンター」にクローン技術についてレクチャーをする教授を演じていたっけ。それにヴィム・ヴェンダース作品『アメリカの友人』『ベルリン・天使の詩』やヴェルナー・ヘルツォーク作品『ノスフェラトゥ』など、あまり知らないドイツ人俳優の中では最も親しんでいた俳優だった。そんな彼がヒトラーを演じるようになるなんて。だからこのヒトラーは冷酷無比の悪魔でも完全な狂人でもなかった。人間だった。
 そしてポランスキー作品『戦場のピアニスト』で、ピアニストに味方するナチス将校を演じて存在感を示したトーマス・クレッチマン(U2のボノにちょい似)が、ヒトラーの愛人(後に妻)エヴァの義弟として再び素晴らしい演技を見せる。しかしこの人、本当にイイ男だな〜。「ポスト=ヘルムート・バーガー」はこの人かも、なんて。馴染みのないドイツ人俳優たちの中にあって最も目を引いたのがゲッベルスをやった俳優。あれほどまでに「奥目」の人を見たことがない。まるで特殊メイクのようだった。ヴィゴーモーテンセンなんて目じゃないの。途中から登場して映画をかっさらうのはゲッベルスの奥方。いいね、この女優。夫婦して顔のポイントが物凄く高い。最後は6人の子供たちを毒殺してから自殺。奥方が子供たちに眠り薬をむりやり飲ませて青酸カリの極少アンプルを一人一人噛ませる場面がとにかく怖ろしい。
 生き延びた女性秘書(本物のほうの人)へのインタビューと登場人物たちのその後を伝える字幕で映画は終わる。自殺や獄中死は当然なんだけど、元女性秘書を含め極最近までご存命だった方々が結構いらっしゃるのを知り驚いた。一体あの後どんな一生を送ったのだろうか。見た人の記憶に鉛のように重く沈む作品だろうな。おれはかなりへこんだ。戦争で傷を負ったのはどの国も同じだから別に関係ないと言えばそうだけど、ドイツに旅行する前にこの作品を見ておいて良かった。漠然とそう思った。


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