■寒くない南極
『南極日誌』
南極到達不能点を目指す韓国人探険家チームが拾った物、それは80年前同じように到達不能点を目指したものの遭難してしまったイギリス人チームの日誌であった。そして不思議な現象や死人が出始め、チーム内に狂気と人間不信が渦巻き出す・・・・と書くとなんとも面白そうな話だ。『シャイニング』『遊星からの物体X』など極寒の中で狂い自滅していく人間達を描いた過去の傑作を狙ったのがありありと判る。しかしこれが全くいただけない。南極にロケせずにCG映像を使うのは別に構わない。だが眉毛や髭が凍っているのに吐く息が白くないのはどうしたことか。こういうところで手を抜くと一発でリアリティを失いサスペンスは空回りすることになる。目的地にたどり着けず消耗していく男達にも「だって寒そうじゃないじゃん」というだけで同調不可能。これは致命傷だ。さらに脚本がヘタ。隊長の抱える過去の傷と南極での狂気がちっとも整合しない上に、くだらない心霊現象場面やコケおどし的なショットを挿入してしまったから、物語が安っぽくなっただけでなく展開が「???」でまるっきり判らない。ラストシーン、ありゃ一体なんだ?ワケわかんねー韓国ホラーの見本だな。ソン・ガンホなんか使ってもったいないなあ。ただ一点、川井憲次の音楽は良かった。押井守作品で聴かせてくれたのと全く変わらないスコア。『アヴァロン』にそっくりの曲もあったし。それでもOKだっ!
というわけで口直しに昨年のベスト映画『殺人の追憶』を見直す。むむ・・・・もう最高だな。やっぱりソン・ガンホはこうでなきゃ。クライマックスでボロ泣きだよ。見れば見るほど評価が上がる作品だ。そのうちポスターを購入してちゃんと書こう、これは。
■ダンカン初監督作品
『七人の弔』
ある組織が主催するサマーキャンプに参加した7人の子供とその親達。表向きは和気あいあいだがその実、虐待や借金苦などワケありの親達が子供を臓器の密売業者に売り渡すためのものであった。なかなか面白味のある話だが詰めが甘い。キャンプの引率者を演じるのがダンカンだが、これはミスキャスト。ここはやはり寺島進あたりをキャスティングして(バックについてるのがヤクザなんだし)、ダンカンは子供を売り渡す親をやるべきだった。そうすることで親達のブラックな空気がもっと濃密になったはず。それにしても虐待母を演じた「いしのようこ」(現在はひらがななんだな、この人)の老けっぷりに仰天。ダンカン、実は映画より舞台のほうが向いてるかも知れないな、自分で演出するなら。そんな気がした。
■こりゃへこむ
『ヒトラー〜最期の12日間〜』
ベルリン陥落を目前にしたナチス中枢部をヒトラーの女性秘書の目から描いた大作。作られるべくして作られた「ドイツ映画」。優れた演技力と深い人間味でヒトラーに成り切ったブルーノ・ガンツにまずは拍手。かつて『ブラジルから来た少年』でローレンス・オリヴィエ演じる「ナチスハンター」にクローン技術についてレクチャーをする教授を演じていたっけ。それにヴィム・ヴェンダース作品『アメリカの友人』『ベルリン・天使の詩』やヴェルナー・ヘルツォーク作品『ノスフェラトゥ』など、あまり知らないドイツ人俳優の中では最も親しんでいた俳優だった。そんな彼がヒトラーを演じるようになるなんて。だからこのヒトラーは冷酷無比の悪魔でも完全な狂人でもなかった。人間だった。
そしてポランスキー作品『戦場のピアニスト』で、ピアニストに味方するナチス将校を演じて存在感を示したトーマス・クレッチマン(U2のボノにちょい似)が、ヒトラーの愛人(後に妻)エヴァの義弟として再び素晴らしい演技を見せる。しかしこの人、本当にイイ男だな〜。「ポスト=ヘルムート・バーガー」はこの人かも、なんて。馴染みのないドイツ人俳優たちの中にあって最も目を引いたのがゲッベルスをやった俳優。あれほどまでに「奥目」の人を見たことがない。まるで特殊メイクのようだった。ヴィゴーモーテンセンなんて目じゃないの。途中から登場して映画をかっさらうのはゲッベルスの奥方。いいね、この女優。夫婦して顔のポイントが物凄く高い。最後は6人の子供たちを毒殺してから自殺。奥方が子供たちに眠り薬をむりやり飲ませて青酸カリの極少アンプルを一人一人噛ませる場面がとにかく怖ろしい。
生き延びた女性秘書(本物のほうの人)へのインタビューと登場人物たちのその後を伝える字幕で映画は終わる。自殺や獄中死は当然なんだけど、元女性秘書を含め極最近までご存命だった方々が結構いらっしゃるのを知り驚いた。一体あの後どんな一生を送ったのだろうか。見た人の記憶に鉛のように重く沈む作品だろうな。おれはかなりへこんだ。戦争で傷を負ったのはどの国も同じだから別に関係ないと言えばそうだけど、ドイツに旅行する前にこの作品を見ておいて良かった。漠然とそう思った。
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