■「ATG挑発のフィルモグラフィ」開幕
『音楽』(1972年)
三島由紀夫の同名小説を増村保造が映画化。「音楽が聞えない」と言って精神科医に不感症を告白する女性の性的トラウマと実兄への近親相姦願望を、奇怪な妄想をまじえつつ異様なタッチと常人にはないテンションで描き倒す怪作。主演の黒沢のり子という女優がとにかくイッちゃってるし、精神科医を演じる細川俊之のマンガのようなダンディっぷりに苦笑。しかも、あの『ウルトラセブン』のモロボシダン=森次浩司がセックスシーンを見せるとは!実はこの作品、1980年に東京12チャンネル(現テレビ東京)の「日本映画名作劇場」(解説は品田雄吉)で放映された際に見ている。当時中学3年生だった。早過ぎだろ、これ見るの。
『曽根崎心中』(1978年)
近松門左衛門の有名な浄瑠璃を宇崎竜童と梶芽衣子で「まんま」映像化。無表情な顔、映画とは言えない動き、大仰なセリフ回しなど最初はどうにも戸惑ったが、梶芽衣子が見せる絶世の美貌と大映テレビドラマのようなどこかネジの外れた直球芝居に引きずられるうちに、脳内にヘ〜ンな汁が出始めた。ベテラン井川比佐志や左幸子のせいもあって際立ってしまった宇崎竜童の学芸会並演技には失笑せざるを得ないが、見終わってみれば梶芽衣子の演技とのバランスが意外にも良かった気がする。暑苦しい存在感を見せる橋本功のハマリっぷりも見事(惜しい人を亡くした)。赤い腰巻いっちょうでオッパイをぶるぶる揺らしながら火打石をたたく青木和代の姿に唖然。『ドラえもん』のジャイアンのお母さん、『未来少年コナン』のジムシィを演じた声優だ!ひえ〜っ。なんだか友達のお袋の裸を見ちゃった気分。
とにかく、これ梶芽衣子の代表作の1本だと思う。も〜うっとりしたよ。美し過ぎて怖い。彼女が出ているというだけで傑作だ。浄瑠璃の映像化か・・・・もしかして実写版『サンダーバード』もこういう風に作ればよかったのでは?
『少年』(1969年)
「当たり屋」をしながら各地を転々とする一家を描くロードムービー。長い間見たかった作品をやっと見ることが出来た。もう最高だ。大島渚バンザイ!
主人公の少年を演じる子の顔がとにかくいい。演技も上手いが何よりも顔だ。この辺りに大島渚のセンスを感じる。観光地、旅館、食堂など「昭和」を背景にした家族4人の風景にしびれる。決して暖かい風景などではない。少年の父親は無職の傷痍軍人、母親は継母、弟は腹違い、そして母親と少年が当たり屋で稼いでいるのだ。どの車に当たろうか決めかねている少年を後ろから突き飛ばす母親。遠くの建物の上から見張る父。父は母と喧嘩が絶えず、2人とも少年には辛くあたる。もう「かわいそう」とか「気の毒」とかいうレベルではない。母親の秘密を握ることで少年との距離が縮んだかに見えるが、そうでもない。辛い現実から目を背け少年は宇宙へと思いを馳せる。本州で「仕事」がしづらくなった一家は北海道へと渡る。寒々しい家族の風景はどんどん凍り付いていく。日本最北端の記念碑の前で猛吹雪の中まんじゅうをパクつく親子。『日本春歌考』でも大雪の東京を美しく切り取って見せた大島。クライマックス、逃げようとした少年と、「おにいちゃん!」と追って来た幼い弟が降り続く雪の中に佇む風景には「映画の奇跡」を感じずにはいられない。この作品の白眉だ。
「日の丸」を効果的に配した戸田重昌による美術、林光による不条理感みなぎる音楽を後ろにつけて少年の顔は一層輝く。演じた阿部哲夫という子供はこの一作で消えた。良かったと思う。「永遠」を手にしたのだから。
この作品を見ていて思い出した映画がある。山田洋次の『家族』(1970年)である。同じく家族を描いたロードムービーとは言え、その温度差には怖ろしく開きがある。『少年』で幼い弟を演じた子は、なんと翌年『家族』でも父母に連れられていた。なんちゅうこった。
『祭りの準備』(1975年)
前述したように、その昔東京12チャンネルでは毎週のように土曜日の夜遅く日本映画を放映していた。70年代中盤くらいまでの邦画を見ることがこの上ない楽しみな中学生だった(嫌なガキだ)。だからATG作品はそれなりに見ていたように思う。そんな中にこの『祭りの準備』もあった。漁村を舞台にした青春映画で、江藤潤と竹下景子のセックスシーンがあって、原田芳雄が最後にバンザイをしていた程度の記憶しか無かった。で、約25年ぶりに再見。いやー、凄いなこの映画。セックス!セックス!セックスだよ!年頃の主人公(童貞臭プンプン江藤潤)が悶々とするのわかるわ。隣家が凄まじい。盗みで刑務所へ入った兄の嫁を代わりに可愛がる弟(原田芳雄が最高)に、シャブでクルクルパーになって都会から戻ってきた妹。健常者ではないことをいいことに村の男達は彼女に夜這いをかける。主人公もまた同じだが、結局モノにしたのは主人公の祖父(浜村純がイイ〜)ってのがまた凄い。主人公の恋人(竹下景子が可愛い)は左翼系活動家にコマされちゃうし、友人で足の悪い仕立て屋が実の母親とやってる姿を目撃しちゃうし一体どうなってんだ、この村。誰のか判らない子供を生んだら何故かクルクルパーが治った隣家の娘につれなくされた祖父は首吊り自殺。原田芳雄はどこかで誤って殺人を犯して逃げ回り、主人公は勤務先で宿直中に恋人を連れ込んで火事を出す。で、シナリオライターを目指している主人公は家族や村や恋人から逃れるように東京を目指すという最後。脚本家中島丈博の自伝的内容だとさ。
『津軽じょんがら節』(1973年)
ほとんど記憶に無かったが、やっぱりこれも昔見てたな。東京から逃げて来たチンピラとその恋人は彼女の故郷である漁村に落ち着く。最初は村に馴染めないチンピラだが、盲目の少女やシジミ漁師のおやじと交流するうちに村に居ついてしまう。そしてやって来る追っ手のヤクザ。
三味線の音色、吹きすさぶ風、逆巻く波、「よくまあこんなとこに住んでるぜ」というあばら家、なんの娯楽も無くひっそりと生きる人々・・・・もはや遠い国の出来事としか映らない過酷な風景。「失われ行く土着的な日本の中に自らの居場所を求める都会の若者」という、当時社会問題だった「過疎化」と逆行するストーリーに、結局そんな夢はかなわないという厳しいラスト。「ザッツ・ATG!」とでも言いたくなる名作だ。
主人公のチンピラ役織田あきらは『日本の首領 完結篇』でドラ息子をやってた人(板尾創路に似てる)。彼が父親のように慕うシジミ漁師に同作では実の父親を演じていた西村晃。主人公が恋する盲目の少女の母親には同シリーズで佐分利信の妻を演じた東恵美子という、なんとも『日本の首領』なキャスティング。
『初恋・地獄篇』(1968年)
子供の頃、羽仁進という監督は動物のドキュメンタリーばかり撮っている人かと思っていたが、新しい手法を駆使した日本のヌーヴェルヴァーグの騎手だったことを後に知った。1972年作品『午前中の時間割り』は夏休みに2人きりで旅に出た女子高生(素人)の姿を、各々に持たせた8mmカメラが切り取った映像で繋いで行くという実験的な青春映画だった。全篇に漂う「アマチュアっぽさ」は瑞々しくもあり、青臭くて恥ずかしくもあり、退屈でもあった。
寺山修司脚本によるこの『初恋・地獄篇』、主人公の少年少女を含めほとんどの登場人物がやはり素人で、彼らの存在感が同様のアマチュア感を醸し出してはいるが、物語はこちらの方がしっかりしている。親に捨てられ彫金師の養父の下で男色の責めに耐えて育った少年が、ヌードモデル(美術学校向けではなく風俗系)をしている少女と恋に落ちるが、いろいろあってヤクザ者に目を付けられ追われた挙句少女のアパートの前で交通事故死するというストーリー。少女の商売が商売なだけあってアングラなムードは満点。少年の「童貞200%」な風貌と言動(ロリコンを思わせる場面もあり)にヒヤヒヤ&イライラ。養父と少年の職業が彫金てのが小生的にはどうにも複雑(同業者なのでね)だったり、上野界隈の風景がステキだったり。いろいろと見るべきところは多いし、「ヌーヴェルヴァーグ感」があると言えばあるが、「ATG作品」という枠組みをはずした上でどのくらい評価されて来たのかは疑問だ。小生は好きだけどね。音楽もツボだったし。
少女のパトロンみたいな中年男を昔NHKの『中学生日記』で先生役をやっていた湯浅実が演じていた。懐かしい。非常に小さい役だが阿知波信介の顔も。『ウルトラセブン』の「ソガ隊員」ね。
■「劇画のような映画」ではなく「映画のような劇画」
『シン・シティ』
スーパークールな画作りと曲者ぞろいのキャスティングで原作を怖ろしいほど「まんま」映画にしてしまった話題作。特殊メイクバリバリだがやっぱりミッキー・ロークはかっこいい。酒や煙草が似合いすぎ。この作品中最もハードボイルドだったのはもちろん彼。なんたって『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』『エンゼル・ハート』だもんね。出色は超サイコなイライジャ・ウッド。もうね、藤子A不二雄の『魔太郎がくる!!』にしか見えない。薔薇模様のシャツに黒マント、絶対似合うって。「メラメラメラ 恨みはらさでおくべきか」ってさ。女優陣も良かったな。女が魅力ないと男が輝かないからね、ハードボイルドは。デヴォン青木の役が意外や大きかったのに驚いた。小生的にはブリタニー・マーフィーにlove。若い頃のゴールディー・ホーンと加賀まりこを足した「小悪魔」の王道的な顔。キャスティングに関しては言うことないんじゃないかな。最近珍しいほどに完璧だった。
とにかくムード満点の『シン・シティ』。ストーリー展開も巧みだし、CGで作り上げた画からも世界観がビシビシ伝わって来る。しかし、残念だ。音楽がつまらないのだ。これは致命的だと思う。ハードボイルドに限らず音楽の良し悪しは映画の出来を左右する。タランティーノの音楽センスの半分でいいからロドリゲスに備わっていればね〜。故に『キル・ビルVol.1』を超えられなかった。
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