Diary

■2006年11月

06.11.30

「あれ」にモザイクをかけろ!

『エコール』

 小生が最も苦手なものは「イモ虫」である。蝶や蛾の幼虫で、真っ黒だったり派手な模様があったり角が生えてたり・・・・と書いていてすでに身震いするほど嫌いである。群馬の田舎で育った小生はよくコイツらの存在に悩まされた。通学途中、学校、近所の遊び場、我が家の庭、時には飼い猫が家の中にまで招き入れてしまうこともあった。見つけたらもうその瞬間パニック、というか凍り付いてしまう。1度など我が家の玄関先にヤツが寝そべってるのを発見し、1時間近くも家に入れなかったことがある(小生26歳の時のこと)。現在でも夢に出て来てうなされることがあるほど忌み嫌う存在だ。ヤツらのどこが嫌いか?何故嫌いか?と訊かれれば「なんでかわかんねーけどぜーんぶ嫌いなんだよっ!」としか答えようが無い。ああ、本当に気持ち悪い。

 金子修介監督作品『1999年の夏休み』(1988年)がとても好きだ。近未来(公開当時ね)を背景に、山奥にある全寮制の学園が夏休みに入り、事情があって帰省出来ない4人の少年たちがそこで愛憎劇を繰り広げる、というもの。原作は萩尾望都のマンガ「トーマの心臓」。4人の少年たちを演じるのは大胆にも全て少女。その中にはブレイク前の深津絵里もいた。少年とも少女ともつかぬ美しい「生き物」がトラウマや嫉妬を超えてひと夏の間に成長する物語なのだが・・・・まあ象徴的な意味なんでしょうな・・・・1シーン出て来るのでありますよ、アレが・・・・スクリーンに大映しなのですよ、アイツが・・・・。本来ならDVDでも買って夏になったら風物詩のように見たい作品ではあるが、そういう理由で手元には置いておけない。DVDケースの中にアレが潜んでいる気がして。

 そんな『1999年の夏休み』を想起させるようなシチュエーションを持った『エコール』。森の中にある隔絶されたバレエ学校を舞台に、少女が無垢だったり、残酷だったり、脱走したり、死んだり、大人になろうとしたりするのだが、物語らしい物語は無い。サイレント映画を真似た古めかしいメインタイトルから始まり、映像は全篇に渡ってとにかくうっとりとさせる。特にラストシーンで得られる「喪失感の伴うカタルシス」は圧倒的だ。ギャスパー・ノエ作品『アレックス』(あれも凄い映画だった!)をダイレクトに想起させる。
 デイヴィッド・リンチを意識したかのような重低音やノイズ、時折挿入される「水」の抽象的な映像など、さすが「ギャスパー・ファミリー」といったエキセントリックな演出も光っている。いわゆる「ロリコン目線」のようなイヤラシさがつけ入る隙は一切無く、「少女の王国」を恐いくらいハードコアに描き切っているのは、女性監督のなせる技なのであろうな。
 こんな作品今まで無かったはずだ。これはカルト映画になるかも知れない。うっかり「メルヘン」や「オシャレ」を求めて見に来た客には「???」だったことだろう。案の定隣りのオシャレカップルは「あー、眠かった」と言ってたし。
 
 しかしね・・・・植物のクローズアップが映し出された時に嫌〜な予感がしたんだよ・・・・と思ってたら案の定だ・・・・『1999年の夏休み』と同じ記号で登場だよ・・・・アイツが・・・・。すぐさま目を伏せちゃった・・・・ああ、怖ろしい。

 もう少年少女の成長物語の記号として映画でイモ虫使うの禁止!!!
 


06.11.30

ぼっけえきょうてえ

『ホステル』

 『ソウ』はじめ、いかにもソリッドな21世紀型ホラーが横行する中、デビュー作『キャビン・フィーバー』で、往年のトビー・フーパーを彷彿とさせる70年代ホラー風味を効かせて、唖然とするほどアナログな味わいを見せたイーライ・ロス。新作『ホステル』では、予告編を見る限り「お、やっぱり『ソウ』シリーズみたいに派手なものがやりたくなったのね」と思い込んでいたが、本編を見ると『キャビン〜』で見せた一風変わったホラー演出は健在。開巻早々派手な見せ場で観客をつかむのではなく、ゆっくりじっくりと恐怖度を高めて行く、という昨今の若い監督がやらなくなってしまった古典的手法をきっちり守るところが、イーライ・ロスの素晴らしいところだと思う。

 「アメリカ人のバックパッカーはヨーロッパでは嫌われている」と聞いたことがある。小生がたびたび訪れたことのあるロンドンにも、どうもそういう風潮が存在するようだ。アメリカ人の話す英語が気に入らないとか、マナーが悪いとか色々と要因はあるのだろう。そんなシチュエーションを上手に使って、嫌われ者である旅行者たち(うち1人はアイスランド人だが)が唯一自分たちを歓迎してくれるというスロヴァキアの町を目指す・・・・しかし極楽に行ったつもりがそこは地獄だった、という単純極まりない民話レベルのストーリーにリアリティを与えているのがポイント高し。
 さらにロマン・ポランスキーがかつて得意としていた「ヨーロッパの迷宮でてんてこ舞いするアメリカ人」(『テナント』や『フランティック』)という展開をとことん巧く絡め、逃げ場の無いムードを醸し出して悪夢をこれでもかと増幅させている。こういうのってアメリカ人が見たら本当に怖いんじゃなかろうか。

 アメリカ人が東洋の迷宮で地獄巡りをする『ぼっけえきょうてえ』を撮った三池崇史が出演を依頼されたのもうなずけるこの映画。かなり怖いのだが、クライマックスで突如登場するサディスティックな男の顔を見て思わず笑った。傑作『セルラー』で高級車を奪われた弁護士を演じた俳優であった。とにかくバカ顔。1度見たら忘れない・・・・と言いたいところだが、『デイ・アフター・トゥモロー』にも出てたとは!
 


06.11.27

ラスト・オブ・イングランド

『トゥモロー・ワールド』

 テロに経済格差に移民問題、おまけに出生率ゼロという、イギリスはおろか現在世界中が抱える問題をエクスパンドさせた悪夢の未来図。ハイテクマシンも登場することはするが、強烈な印象を残すのはいかにもなSF的ガジェットではなく、荒廃した市街地と瓦礫の山ばかりだ。どこに製作費120億円をかけたのかわからないほど、荒れ果てた街並ばかりの映像。だが、ショボいからこそ圧倒的にリアルだ。『プライベート・ライアン』に匹敵する迫力ある銃撃戦を意外なところで拝むことになった。長回しの撮影も素晴らしい臨場感をもたらした。

 長髪&丸メガネで登場するマイケル・ケインに驚く。ふざけた言動にロックに大麻・・・・これは間違いなくジョン・レノンの未来の姿だ。声まで似て聞こえる。「サー」の称号を持つマイケル・ケインがジョン・レノンをね・・・・感慨深い。もちろん劇中でもジョン・レノンの曲がかかる。レノンも生きてれば「サー」になってたかも知れないな。

 主人公クライブ・オーウェンがロンドン中心部を車で走るシーンで突如鳴り響くのが、なんとなんと、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」である。感動で小便チビりそうになった。でもって荘厳なメロディが響き渡る中、車はある巨大な建造物に入って行く。その建物とはテムズ河畔にそびえ立つ「Battersea Power Station」・・・・つまりピンク・フロイドの「Animals」のジャケットになった、4本の煙突を持つ巨大火力発電所である。おまけに建物の中に入ると、ご丁寧に窓からは巨大な「ブタの風船」が浮いてるのが見えるのだ。ピンク・フロイドとキング・クリムゾンが融合するという凄い場面。プログレ・ファンには感涙モノではないか。

 「荒廃した未来のイギリス」という図式では『時計じかけのオレンジ』『1984』に連なる作品と言えるのだろうが、ヴィジュアル的に最も影響を与えたのは、ウィルスによって人間がゾンビ化したイギリスを描いたダニー・ボイルの『28日後・・・』ではないかと思う。あれも素晴らしい作品だった。
 ちなみにこの日記、タイトルにデレク・ジャーマンの作品名を持って来たはいいが、小生これ見てませんので悪しからず。でも恐らくこの映画からも影響受けてるはず。

 『天国の口、終りの楽園』の監督(メキシコ人)がよくまあこれほどの映画を撮ったもんだ。娯楽作品とは言えない物語であるし映像にも派手さは無いが、これは思わぬ拾い物である。
 勝手な邦題を付けられちゃったSF映画に傑作は無い、という法則が小生の中に存在するのだが(この映画の原題は「Children Of Men」)、当てはまらないこともあるのだなと思ったよ。ただし、この作品がSF映画史に残るほどの傑作かどうかはわからないけどね。
 


06.11.27

■ロリコン宣言

『フラガール』

 昨年の『ALWAYS 三丁目の夕日』みたいな、高度経済成長期を背景にした手垢にまみれたサクセスストーリー。手垢にまみれているとは言え、まあ良く出来ている話ではある。だがもう騙されないぞ。『三丁目の夕日』なんぞを昨年のベスト2にしてしまったことを今では死ぬほど恥じている。どうでもいいが、案の定あの映画は続編の制作が決定。小生の予想通り「東京オリンピック」を背景にするらしい。またヒットしたら3作目は絶対「大阪万博」だって。これ本当。
 とまあ、そういうわけでこんなにベタな泣ける映画を語るつもりは無いが、ひとつだけ声を大にして言いたいことがある。

 
蒼井優、可愛いにもほどがあるぞ。おじさんはウットリしっ放しだったよもう。ああ。

 って何言ってんだ、おれ。
 でもまあ今年は『ダウン・イン・ザ・バレー』の美少女と言い、どうにもこうにもロリータ趣味に走ってるのは確か。
 菊地成孔の「SPANK HAPPY」にハマったのが決定打。
 ムーンライダーズの曲で小生が最も好きな「G.o.a.P.(急いでピクニックへ行こう)」の歌詞を思い出す。

 「僕が19で君が生まれて君が19の時僕と出会って」

 小生、蒼井優とは20歳差である。ああ、また胸が苦しくなって来た。
 ちなみに30年以上前、「常磐ハワイアンセンター」に行ったことがある。小生には居心地の悪いところだった。


06.11.27

藤原竜也は字がヘタだったが、片瀬那奈、お前もか

『デスノート the Last name』

 これは原作を超えたな。面白かったっ!
 「L」が殺されて以降の展開に今イチ乗れなかったコミック版への不満が霧消したよ。「L」の後釜である「ニア」「メロ」を登場させアメリカにまで舞台を移して引っ張りに引っ張ったコミックの後半には、どうにもこうにも少年ジャンプの金儲け主義が匂ったものでね。
 テーマの抽出や物語のシェイプアップ、キャラの設定変更などアダプテーションの巧さはかなりのもの(アニメ版『AKIRA』に匹敵すると言ったら褒め過ぎか)。そして、物語の牽引者である「L]を演じる松山ケンイチのインパクトと、キーを握る「ミサミサ」=戸田恵梨香のキューティーっぷりが勝因の決定打だ。ミサミサの監禁場面におけるマニアックなエロはもちろん、片瀬那奈の美脚の過剰サービスまで、金子修介の趣味が暴走しちゃうのもご愛嬌。主要メンバー以外の捜査チームや一般人の演出がお粗末過ぎるのは相変わらずだが、これもご愛嬌、つうかそれが狙いか。
 「正義とは何か」という命題へ寄り道することなくストレートに至ることが出来たのは、間延びしたコミック版ではなくすっきりまとまった映画版だからこそなせるワザだった。「L」を死に至らしめる展開もうれしい見せ場だ。
 演技者としては数段上であるはずの藤原竜也と鹿賀丈史が、結局はこの物語に一番馴染んでなかったのがなんとも可笑しかったな。 


06.11.27

■何も足さない。何も引かない。

『父親たちの星条旗』

 というのはウィスキーか何かのCMコピーだったか・・・・イーストウッドの監督術はまさにそんな感じだと思う。派手なアクションや主人公のヒーロー然とした活躍でカタルシスを与えるでもなく、風変わりで新しい物語をトリッキーな演出で見せるでもない、「等身大の作品」。苦々しい現実や人生の重みをあれほどストレートかつ丁寧に見せる監督はイーストウッド以外にいないのかも知れない。特に老境に入って作られた近作では、そのあまりにもストイックな姿勢に思わず言葉を失ってしまう。真摯にアメリカと向き合い、「何も足さず、何も引かずに」アメリカを描くイーストウッドの姿は美しいし、監督としての優れた手腕にケチをつけることなど出来ない。

 そう言えばアカデミー賞を獲った『許されざる者』あたりからだろうか(いや、あれは傑作だったんだが)、「イーストウッド作品を褒めない奴はアホ」みたいな風潮が出来上がったのは。蓮実重彦センセ(今回もパンフにテキストを書いてるらしいが)の『ミスティック・リバー』の褒めちぎりっぷりなんか尋常ではなかった。確かに良い映画だとは思ったが、「そんなにスゴイか?これ」と首を傾げたよ。映画評論家がもしそんなことを言おうものなら首が飛びそうなくらいに「イーストウッド礼賛」の空気が横行しているのは確か。相変わらずある「触らぬゴダールに祟りナシ」みたいな風潮も同様。

 ま、愚痴はさて置き『父親たちの星条旗』。今回もイーストウッド節は全開である。激しい戦闘シーンで観客の度肝を抜きつつも、むしろ「国家の英雄」に祭り上げられた3人の兵士のその後を丁寧に描くことで、「アメリカの欺瞞」や「運命の残酷」や「人生の苦渋」を浮かび上がらせる(『ミスティック・リバー』も『ミリオンダラー・ベイビー』も全く同じ)。特にアダム・ビーチ演じるインディアンの兵士の運命は残酷だ。「戦争の勝者」である3人がその後送ることになる三者三様の人生模様こそがこの映画の真にドラマティックな部分なのだ。

 新時代を築いた『プライベート・ライアン』以降、「戦争映画」というジャンルはCGを導入することでこれまでに無いリアリティや迫力を獲得して来た。『父親たちの星条旗』でも大小様々の艦船や揚陸艇が海上を埋め尽くし、戦闘機がビュンビュン飛び回るシーンがCGで描かれる。物凄いスペクタクルだが、いくらなんでもやり過ぎだろうと上映中ずっと思っていた。しかし、エンドロールで次々と現れる当時の記録写真に愕然とさせられることになる。まるっきり同じ、なのだ。CGで再現されたあの途方も無いスケールの戦闘シーンをイーストウッドは「何も足さず、何も引かず」描いたのだ。最後の最後にとてつもないどんでん返しを食らったとしか言いようが無い。そして英雄3人の人生の重みをまた反芻させられることになるのだ。

 ちなみに懐かしい顔が2つ。ただのインディアンに逆戻りしたアダム・ビーチが戦友の父親に会いに行くのだが、その父親を演じていたのが『スターシップ・トゥルーパーズ』でジョニー・リコのパパを演じていた人だった。それから、3人のうち「タイロン・パワーきどり」のイケメンと結婚する女性、あの人『乙女の祈り』の主人公ね。ずいぶんとまあおキレイになって。

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