Diary

■2007年2月

07.02.07

■これを褒められる人、いますか?
 
『フリーダムランド』

 この映画、かなり『セブン』風のメイン・タイトルで始まる。なんだか懐かしい。あのカイル・クーパーによる画期的なタイトル・デザインの衝撃から、もう丸11年が経ってしまったのだな。しかし最早クラシックになったとは言え、こんなに『セブン』風にしちゃダメだろ。つうかマネするにしてもちょっとダサいぞ、これ。何も予備知識ナシに見始めたのだが、こんなタイトルってことはこれ、いわゆるサイコ・スリラーなのか?
 貧乏な黒人ばかりが住むエリア。黒人に自動車を奪われたという白人女性。行方不明のその息子。警察の横暴な捜査。行方不明児を捜すボランティア団体。一触即発の状態にまでもつれ込む黒人住民と白人の警察。担当黒人刑事の苦悩。行方不明の子供はどこに?犯人は誰?・・・・・サイコ・スリラー風に始まった物語はいつの間にか人種問題やらMissing Children問題へと発展。被害者の白人女性は元ジャンキー、担当の黒人刑事は息子がムショの中、というワケありキャラ。様々な要素が上手く絡み合って絶妙な社会派サスペンスに・・・・って、これが全然なってないんだよ!
 とにかく退屈極まりない2時間を強いられたこの映画。ラストでは驚愕の事実が判明する。
 あの『セブン』ぽいダッせーメイン・タイトル、なんとカイル・クーパー本人が作ったものだったのだ!
 


07.02.07

■がんばれ!ジョニー・トー!
 
『エレクション』

 ジョニー・トーの作品はこれがまだ4本目だ。初めて見た『マッスルモンク』はさておき、今月見た『柔道龍虎房』『ブレイキング・ニュース』に続いて最新作『エレクション』(これ原題どおり『黒社会』でよかったんじゃないかな・・・)に共通するのは「香港の空気感」だ。
 ライトなジャッキー・チェン作品やスタイリッシュなジョン・ウー作品に希薄だったもの。香港に生きる者たちの「どこか屈折した感情の澱み」のようなものが、ジョニー・トー作品の画面からは染み出て来る。そして、そんな映像はどこか懐かしい。少年時代に見たブルース・リーや「ミスター・ブー」シリーズなど、70年代の香港映画が濃厚に持っていた「都市の魔」のようなものをトーの作品から嗅ぎ取ることが出来る。彼が切り取って見せる香港はとにかくムーディなのだ。

 黒社会のトップを決める選挙での駆け引きから始まり、やがて選挙結果に異を唱える者の策略によってトップの座を賭けた勢力争いは苛烈を極めて行く。主人公のサイモン・ヤム、レオン・カーファイ他、主要キャスト全てを『柔道龍虎房』『ブレイキング・ニュース』の俳優たちで固めるという「ジョニー・トー オールスターズ」ぶりが楽しませてくれる。久し振りに見るレオン・カーファイは、『ラマン 愛人』で見せたエレガントな美青年の面影は無く、いかにも「その筋の人間」といった血の気の多いキャラクターを生き生きと演じていて素晴らしいし(井上陽水に激似)、『柔道龍虎房』に主演したルイス・クーが、一転して今回は剃刀のような2枚目っぷりで田宮二郎や渡哲也など往年のやくざ映画を彷彿とさせるキャラクターを演じて画面を引き締める(この人続編では主人公らしい)。

 筆文字の「黒社会」というタイトルが東映の任侠映画のようにシネスコの画面いっぱいに現われ、この秘密結社の規則を記したのであろういにしえのマニュアルがグラフィカルに映し出されるオープニングが、これから展開される争奪戦に重みと気迫を与える。中盤で明かされる、香港の黒社会のルーツが17世紀の清朝時代に明の復興を目指して漢民族が結成した秘密結社だった、という歴史のパースペクティヴにクラクラする。
 ラスト、釣りの最中に兄弟分レオン・カーファイを殺すサイモン・ヤム。『ゴッドファーザーPARTU』のラストへのリスペクトと言っていい。コッポラは壮大な物語の幕をあそこで下ろしたが(ま、そういうことにしといてね)、『エレクション』はむしろあそこから始まる。組織のトップをめぐる男たちの熱い戦いの、これは序章なのだ。

 新世紀香港ノワールの金字塔「インファナル・アフェア三部作」を超えて見せてくれ!
 ジョニー・トーよ!あんたなら出来るはずだ!
 


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