DIVA
『ディーバ』(1982年)

1983. US 1Sheet. 27X41inch. Rolled.

■センティメンタル・ウォーク

 当時の資料によれば、パリで1981年3月に公開をスタートして、なんと83年に134週を超えてもロングランを続けたという大ヒット作『ディーバ』。アメリカでは82年に、日本では83年の秋に公開された。
 「スピルバーグとジャン・コクトーのクロスオーヴァー」とも「ネオ・ヌーヴェルヴァーグ」(おかしな言葉だ)とも言われて絶賛されたこのジャン・ジャック・ベネックスの長編デビュー作を、小生は有楽町スバル座で見たと記憶している(スバル座は当時フランス映画社の配給するアート・フィルムを上映していた)。

 レコードのリリースを一切しない黒人のオペラ歌手(「ディーバ=歌姫」)の熱狂的なマニアである郵便配達夫の青年ジュールが、コンサートで彼女の歌声を完璧な形でカセット録音することに成功。そのテープが、売春組織を摘発するための証拠テープと入れ替わってしまったから大変。殺し屋、警察、謎の中年男とベトナム人少女、台湾の海賊盤業者が入り乱れて繰り広げる2本のカセットテープの争奪戦が、青年とディーバの恋を軸にスタイリッシュに描かれる。
 青年の力になる得体の知れない中年男ゴロディシュをリシャール・ボーランジェがなんともセクシーに演じる。倉庫のような広い部屋を奇抜なインテリアで飾り、床で瞑想に耽るようにジグソーパズルをする彼と、ローラースケートで走り回るベトナム人少女アルバ。流れるアンビエントな曲が醸し出すヒンヤリとしたエロスがこのシーンをなんともムーディにしている。
 音楽を担当したのはウラディミール・コスマ。ディーバとジュールの公園でのデートでかかる曲は劇中最も美しい。エリック・サティのパロディのようなこの「Sentimental Walk」というナンバーが、ブルーのフィルターをかけられた夜明けの映像とMTVのようにマッチし、この映画の白眉となっている。コンサートで歌われる「La Wally 〜Aria〜」を含んだ、ロックと現代音楽が同居したこの映画のサントラで、コスマはセザール賞を獲得した。ちなみに当時のパンフには、ジョセフ・コスマ(「枯葉」の作曲者)の息子、と書かれているがこれは間違い。

 このポスターと同デザインのジャケットに入ったアメリカ盤LPを長年愛聴している。そんなわけで、いつの間にかこのデザインを好きになっていた。顔が半分だけ写った男は後にジェン=ピエール・ジュネ作品で有名になるドミニク・ピノン。革のコートにスキンヘッドというピノン演じる殺し屋の武器が、アイスピックというのもクールだった。