DUNE 
 『デューン/砂の惑星』(1984年)


1985. US 1 Sheet. 27X41inch. Rolled.

■『ジェダイの復讐』

 ファンの間ではおなじみの話だが、リンチはなんと『スターウォーズ ジェダイの復讐』の監督をオファーされたことがある。もし実現していたら・・・・世界中にファンを持つあのシリーズの最終章をリンチが監督していたら・・・・どう想像してよいのやらわからないが、現在に至る映画史は確実に変わっていたはずだ。
 当然『イレイザーヘッド』ではなく『エレファント・マン』での才能を買ってのオファーだったに違いないが、それにしても「ジョージ・ルーカスよ、気でも狂ったか」と言いたくなるこの事件(実際はいろんな監督に打診していたようだ)。「SFはあまり好きじゃない」「この作品はルーカスのものだから」という理由からリンチが断って一件落着。
 だが、『エレファント・マン』を見てリンチにSFを撮らせようと思い立ったトンチンカン野郎がもう1人いた。
 世界的な大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスである。



1985. German 2 Sheet. 33X46inch. Rolled.

■リンチ宝石箱

 フランク・ハーバートの大長編SF『デューン/砂の惑星』のどこをどういじって脚本にしたのか、原作を読んでないのでさっぱり判らないし大して関心も無いが、それでもこの2時間17分の映画の破綻・乱調っぷりを見れば「これ、原作ファンはどう思っただろな」と同情を覚えずにはおれない。しかし、リンチ・ファンの目にはこの映画が宝石箱として映るのだ。
 まず、何と言っても後に『ブルー・ベルベット』『ツイン・ピークス』でリンチの分身と化すことになるカイル・マクラクランのデビュー作であるし、『イレイザーヘッド』のジャック・ナンス、『エレファント・マン』のフレディ・ジョーンズ、『ブルー・ベルベット』のディーン・ストックウェルとブラッド・ドゥリフ、『ツイン・ピークス』のエベレット・マッギルなど、リンチ作品の常連俳優が顔を揃え、さらにはリンチ自身も1シーン出演している。
 悪者ハルコネン家の3人組、顔面が疱瘡だらけのハルコネン男爵のサディズム三昧、始終汗をかいている巨漢ラバン、『時計じかけのオレンジ』のアレックスのようなフェイド(スティングだ!)のエキセントリックなピカレスクぶりはあっぱれであるし、パンキッシュなコスチュームに身を包んだギルドの使者と、グロテスクかつ卑猥な形状の航宙士もリンチならではの悪趣味の賜物だ。
 プロダクション・デザインは、ハイテクと言うよりは前2作品に近いゴシックでスチーム・パンクな雰囲気だ。
 マクラクラン演じる主人公ポール・アトレイデスが繰り返しうなされる悪夢のシークェンスでは、リンチお得意のイメージ連鎖にブライアン・イーノのスコアが華を添えて美しい。

 どこに金をかけたのか判らないほどヘタなSFXの間を埋めるのは、異形の者達の饗宴なのであった。

 ドイツ語タイトルは「DER WUSTENPLANET」。砂上に展開するフレメン軍団はよく見ると映画本編とは全く違うコスチュームであるし、背景に集結している無数の戦闘機は劇中の「オーニソプター」とは似ても似つかない形状だ。しかもあまり上手とは言えないイラスト。だからこそとてつもない珍品オーラを発している。ちなみに、下部クレジットには俳優の名前が1つも無い。あれだけ豪華なキャスティングなのに。


公開当時にRevell社より発売されたプラモデル。
口は開きっ放しだが、胴体は可動するうえに、砂丘のジオラマに据え付けることが出来る。
5ミリ大のフレメンたちも付属、というマニアックぶり。

■砂虫

 この物語のキーになる存在であり、映画のヴィジュアル・イメージの決定打であるのが「サンドワーム(砂虫)」である。「生命の水」を飲むことで砂漠の民フレメンの伝説にある英雄「ムアディブ」になったポール。そして彼を囲むように大人しく見守る砂虫たち(宇宙を支配する力を持つメランジ=香料の鍵を握るのが砂虫)・・・・否が応でも『風の谷のナウシカ』を彷彿とさせるシーンだ。
 クライマックス、超巨大なミミズ状の虫を嬉しそうな顔で乗り回し戦場を跋扈するポール=マクラクランの姿にうっとり出来るか否かでこの作品への評価は決まるだろう。
 そしてなんとも強引な大団円の後、登場人物&役者紹介の「カーテンコール」のバックで流れるロックバンド「TOTO」によるエンディングテーマがもたらす不思議な余韻。
 小生はこれを味わいたくて『砂の惑星』を繰り返し見てしまう。