ESCAPE FROM NEW YORK
『ニューヨーク1997』(1981年)


1981. US Advance 1 sheet. 27X41 inch. Rolled.

 『猿の惑星』を想起させるレギュラー版イラストよりも、やはりこのアドヴァンス版がイイ。
「オールスターキャスト映画」のように並べられた出演者の顔もナイス。
ただイラストなのが残念。ここだけでも写真にすればよかったのに。

■アウトロー&ロックンローラー

 『ブレードランナー』以前に暗くパンキッシュな未来図を打ち出した作品としてもっと評価されて良いはずの本作品だが、やはりジョン・カーペンターの持ち味であるB級テイストのせいなのか後の『遊星からの物体X』の派手さの影に隠れたのか・・・・しかし個人的にはこの作品をカーペンターのベストに推したい。
 巨大な監獄と化したマンハッタン島に墜落したエアフォース1。大統領を救出するため特殊部隊上がりの伝説の悪漢スネーク・プリスキン(カート・ラッセルの代表作であろう)が召喚され、首筋に小型時限爆弾を注射された彼は仕方なしに凶悪犯の巣窟となっているマンハッタンへ向かう。彼がグライダーで着地したのは今は無き世界貿易センタービルである。この場面の特撮スタッフの中にジェームズ・キャメロンがいたのは有名な話だ。
 奇抜なアイディア、個性的な登場人物たち、低予算だが深みのあるヴィジュアル、カーペンター自身の手になるムード溢れる音楽。今見ても優れているとは言い切れないが、80年代のSF映画群の中にあって鈍く光る傑作であったことは確かだ。そして15年後、なんとスネークは『エスケープ・フロム・LA』で帰って来ることになる。 
 映画監督ジョン・カーペンターは「アウトロー」であり、本物の「ロックンローラー」であると断言しよう。



DIE KLAPPERSCHLANGE

1981. German. 59X84cm. Rolled.

 この映画に関して、恐らく世界中で最も多くの種類のポスターが制作されたドイツ。
タイトル「Die Klapperschlange」とはなんと「ガラガラ蛇」のこと。
あれ?スネーク・プリスキンの刺青ってコブラじゃなかったっけ?

■沈める寺

 ジョン・カーペンター作曲・演奏によるテーマ曲が、この作品に流れる哲学・美学をあまりにも的確に表現していて、もしかしてカーペンターは最初にあの曲を作り、そこから逆算する形でスネーク・プリスキンというヒーロー像を具現化していったのではないか、という勘繰りさえ許されるであろうほど素晴らしく、SF映画という括りをもはや取っ払っても、「80年代映画サウンドトラックの名曲ベスト30」を選べば必ずやランクインするはず、と確信して30年以上なのである。

 70年代に作曲家=冨田勲がシンセサイザーでクラシックを演奏したアルバム群は、コッポラやリドリー・スコットなど映画人の創造性をいたくかきたてたようだ。そして、カーペンターをも確実に、である。
 スネーク・プリスキンがハイテク・グライダーを使ってマンハッタン島に潜入、廃墟と化した摩天楼上空に飛来するシークェンスで、カーペンターはオリジナル・スコアではなく、なんとクロード・ドビュッシー作曲「沈める寺」をシンセで演奏してみせた。
 『ハロウィン』の時からシンセを好んでサントラに取り入れているカーペンターにとって、シンセ音楽のパイオニア=TOMITAが1974年にアメリカでリリースし、大ヒットしたアルバム「月の光」は、恐らく教科書だっただろう。この名アルバムは、ビルボードのクラシック音楽チャートにランク・インし、グラミー賞にまでノミネートされるほど、アメリカではポピュラーな存在だったからだ。「沈める寺」はそもそもシンプルなピアノ曲であるが、教会音楽のごときスケールにアレンジ、演奏されて、アルバム「月の光」に収録されている。

 近未来のディストピア。その夜空を飛ぶ映像。荘厳なメロディを奏でる「沈める寺」。
 『ニューヨーク1997』のこのシーンで味わえる陶酔感は、後に『ブレードランナー』が見る者を釘付けにした冒頭のシティ・スケープを予見するものだ。あの映画でヴァンゲリスが聴かせた幽玄のメロディが、そして高らかに打ち鳴らした鐘の音が、トミタの「沈める寺」に酷似しているのは、単なる偶然と片付けていいものだろうか。ロンドン在住のヴァンゲリスがレスタースクェアの劇場で『ニューヨーク1997』を見て、未来のロスの情景に自分流の「沈める寺」を響かせようと思い立った、と夢想するのは許されないことなのだろうか。
 小生の脳内では、それはもう事実なのだが。