『グラインドハウス』より、『プラネット・テラー』終了後のフェイク予告編集の合間に流れる、テックス・メックス料理の店「Acuna Boys」のCM。


『デス・プルーフ』が始まると、ヴァネッサ・フェルリトがテイク・アウトしてる。


カルピスのキャラクターと同じ口で飲むヴァネッサ。


高さ15cm弱、直径9cm強。プラスチック製。



撮影プロップのオーソリティ「PREMIER PROPS」の証明書付き。
「Hero」とあるので、もしかしてヴァネッサが手にしていた物の可能性も。

■脱グラインドハウス

 ホラー映画として幕を下ろす前半が終わり、後半では新たなキャラクター、つまりスタントマン・マイクの次のターゲットが登場する。そして、モノクロ映像のシークェンスを挟んでカラーに戻る後半において、『デス・プルーフ』はあからさまにそのルックを変える。不自然なくらい、いつものタランティーノ映画に戻してしまう。つまり、ここでタランティーノは「グラインドハウス」から降りてしまうのだ。

 しかし、くだらないガールズ・トークは後半でも健在だ。前半が地方局のDJを中心にしたグループだったのに対し、後半に登場するのは映画のスタントウーマンとヘア係と女優というチーム。作品のルックも変わり、全篇昼間のシーンということもあって、前半の子たちとは打って変わってハツラツとした彼女たちの魅力が後半の牽引力となる。食事をしながら会話に花を咲かせる女の子たちをパンしながら捉える場面は、もちろん『レザボア・ドッグス』のセルフ・パロディだが、背後のカウンターに座るスタントマン・マイクをさりげなくフレームインさせるサービスでもある。

■シップス・マスト

 4人の女子たちのひとり、メアリー・エリザベス・ウィンステッドは、なんとエヴァ・ガードナーの遠縁にあたる女優だ。『プラネット・テラー』でタランティーノがローズ・マッゴーワンに囁く「お前、エヴァ・ガードナーに似てるな」というセリフが、こちら側に美しく飛び火したことになる。
 極々一般的なビューティであるメアリーをその場に残して70年型ダッジ・チャレンジャーを“試乗”に行くという展開は、他の3人が何かタフなイベントをかましてくれる、ということだ。パンフで柳下毅一郎氏が言ってたように、「シップス・マスト」を「ボンネットに乗る」などと字幕を付けては実はブチ壊しではあるが、そんなネタバレも吹っ飛ぶほどの見せ場が出現する。
 仲間の中でも演技も控え目で女優としての存在感も希薄だったゾーイ・ベル(役名も同じ)が、走るダッジの窓からスルリと身を乗り出して屋根に上がった時、それまで映画だと思って見ていたものが、急に映画でなくなる。スタントウーマン役を演じているのだとばかり思っていた女優が、本当にスタントウーマンだった、という驚き。たとえゾーイが『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントを担当した女性だと知っていたとしても、驚きのレベルは変わらないはずである。たとえるなら、普通の恋愛映画を見ていたらヒロインを演じていた女優が恋人役の男優と「本番」を始めてしまうようなものか(そういえば大島渚の『愛のコリーダ』を見た時の衝撃に似てなくもない)。

 そして、一瞬映画でなくなった映画が再び映画へと戻って来た時、ボンネットにゾーイを乗せて疾走する70年型ダッジ・チャレンジャーは、久しく忘れていた高揚感とカタルシスを蘇らせる。映画だ。これこそが映画だ。『バニシング・ポイント』という映画が、白いダッジがただ走ってるというだけである意味成立してしまったように、それと同種のダイナミズムがこのシークェンスにはみなぎっている。もちろんそれこそがタランティーノの狙いなわけだ。