MAN BITES DOG
(C'est arrive pres de chez vous)

『ありふれた事件』(1992年)



1993. US 1 Sheet. 27X40inch. Rolled.

■ベルギーのデ・ニーロ

 カンヌ映画祭で話題をさらったベルギー発の問題作。「殺し」を生業とする男と彼を密着取材するクルー。彼の口車に乗せられたクルーたちは犯行に加担するようになって行き・・・・などと書くと「報道のモラリティ」を問う真摯な方向にこの作品のテーマがありそうだが、とんでもない。あくまでもヴァイオレンス・コメディなのである。

 ブノワ・ポールヴールド(監督も彼だ)演ずる主人公はその職業とは裏腹に、家族や友達思いで酒が好きで冗談がキツくて街の子供達をかまったりもする実に天真爛漫な男である。ロバート・デ・ニーロの真似さえ披露し酔って映画を賛美する歌をわめいたりする彼の愛らしい側面を見せつつ、いざ殺しの場面では粒子の粗いモノクロ映像のせいもあって超リアルかつハードなヴァイオレンスで戦慄させる。
 しかも殺す人数・手段(絞殺、銃殺、おまけにレイプまで)ともに半端ではない。恐ろしいことだ。さっきまで笑って見ていたのに、その直後には凍り付いている。彼の持つこの二面性の面白みは『ゴッドファーザー』や『グッドフェローズ』と同種のものと言える。見ているうちにこの凶暴だがにくめない奴を愛してしまうのだ。
 そしてこの作品自体が「物語かドキュメンタリーか」という、映画というメディアがあらかじめ内包しているアンビバレンツへの深い考察になっている・・・・などと書けば書けるだろうが、もういいや!だってこの映画は単純に大笑い出来る第一級のコメディなんだから!

 イラストを使用したヨーロッパ版ポスターが人気だが、こちらは珍しいアメリカ版。それにしてもこの「人が犬を咬む」というタイトル、なんとかならなかったのだろうか。パンフによると、原題は「あなたの家の近くでその事件はおきた」というタイトルでベルギーの新聞に載っているくだらない三面記事欄の名前らしい。素晴らしいね。



1993. British Quad. 27X40inch. Rolled.

赤ちゃんをぶっ殺すヴァージョン。
左端には「カンヌ」や「シッチェス」といった映画祭での栄冠が。
しかし一番下の「TOKYO」の上には「上映禁止」の文字が!ウソつけ。

下はネット上で見つけた画像。
ロンドンの地下鉄ピカデリー・サーカス駅構内の写真。
MGM Cinema Chelseaはなんとこの2本を上映中!



1993. French. 38X59cm. Folded.

お婆さんをぶっ殺してみましたヴァージョンのフランス版。
このタイトルがやはりしっくり来る。