THE MAN WHO FELL TO EARTH
『地球に落ちて来た男』(1976年)


1976. British Quad. 30X40inch. Rolled.

■SF映画、そしてアイドル映画

 当時、変幻自在なコンセプトと音楽性で70年代を駆け抜けていたロックン・ローラー=デヴィッド・ボウイを主役に据え、環境悪化のため新天地を求めて地球に降り立った1人の異星人が数十年に渡ってたどる数奇な運命を、『美しき冒険旅行』『赤い影』のニコラス・ローグが持ち前の風変わりな演出で綴ったSF映画の名作である。

 特殊メイクなしでも宇宙人に見えるボウイの、この世のものとは思えぬ美しさにまずは目を奪われる。左右色の異なる眼、尖った歯、オレンジ色の頭髪、青白い肌、痩せこけた体・・・・突如としてアメリカの田舎町に現れたこの「イギリス人」はトーマス・ジェローム・ニュートンと名乗り、数々の発明品の特許によって大富豪になっていく。
 明らかに周囲の人間たちとは異なる空気を湛える主人公のストレンジャーぶりは、当時のボウイ(アルバム「ベルリン3部作」の頃)が演じることで限りないリアリティをものにしており、大胆でエキセントリックなローグ演出は時を超えた漂泊の物語に不思議なパースペクティヴを与える。
 故郷の星にいる妻や子供たちに思いを馳せ望郷の念に駆られながらも、陰謀に巻き込まれて帰郷の手段を失い、科学者たちの実験の対象となった挙句に異星人としてのアイデンティティも奪われ、地球の恋人との関係で愛の不毛を悟り、最後には酒に溺れるニヒルな「異星の客」・・・・こんな主人公をボウイが演じなくてどうするというのか。

 ウォルター・テヴィスによるオリジナル・ストーリー、いかにもニコラス・ローグ然とした映像もなんのその、『地球に落ちて来た男』はこれ以上は無いというほどのボウイのための「アイドル映画」である。

■ボウイそのもの

 しかし、このアイドル映画はエルヴィス・プレスリーの『ブルーハワイ』とは違う。何故なら主人公を演じる当代きってのこのロックン・ローラーは、劇中全く歌を披露しないのだ(むしろ『戦場のメリークリスマス』のようにボウイは音痴として描かれたりする)。ボウイが歌うシーンはもちろんんこと、ボウイの楽曲が劇中BGMとしてかかることさえない。「SPACE ODDITY」も「STARMAN」も「ZIGGY STARDUST」も「LIFE ON MARS」も流れることはない。ミック・ジャガーがアイドル的魅力を炸裂させた初長編(共同監督にドナルド・キャメル)『パフォーマンス』では、ジャガーに歌を披露させるシークェンス(まるでMTVのようである)を用意したローグは、今作ではボウイを純粋に俳優として召喚したのだ。
 しかし映画を見ている間、ボウイの名曲・ヒット曲の数々が頭の中に鳴り響き続ける。この映画から4年後に発表された「ASHES TO ASHES」さえもが『地球に落ちて来た男』のテーマ曲然として恐ろしいほどマッチしてしまう。ボウイがこれまで歌って来た全ての曲、これから先ボウイが歌うであろう全ての曲がこの映画とイコールだ。すなわちこの映画はデヴィッド・ボウイが何者なのかを描いたメタ・ドキュメンタリーなのである。

■イラストレーションが表わしている

 イラストレーター=Vic Fairによる水彩画を使ったポスター。端正なボウイの顔立ちの下、湖面に映り込んでいる不気味な顔は異星人としての素顔である。冒頭でフワフワと危なっかしく歩くボウイの姿もその下に小さく描き込まれている。ボウイの名とタイトルのロゴがクール。
 しかしこのポスターで最も大きなポイントは、ボウイの背景に描かれた湖・山・空である。空の深い青が美しく、夕焼けを帯びた雲、遠い山の稜線がイマジネーションをかき立てる。湖から水柱が上がっていることから、この場所は映画冒頭で乗って来た宇宙船が落下した地点だと判る。
 ボウイ扮するT・J・ニュートンは湖の畔に立ち、こうつぶやく。
 「完璧だ」・・・・『地球に落ちて来た男』という映画を完璧に表現し得ている素晴らしいイラストレーション。



1976. German. 30X42cm. Folded.

 宇宙船内でのボウイとリップ・トーンの2ショットをフィーチャーしたドイツ版ポスター。
 映画と同年にリリースされたボウイのアルバム「Station To Station」のジャケットにも使用された
このスティルを撮影したのはSteve Schapiro。
『ゴッドファーザー』や『タクシードライバー』も手がけた名スティル・カメラマンでもある。