THE MATRIX
『マトリックス』(1999年)

1999. US 1 Sheet. 27X40inch. Double-sided. Rolled.

■『ファイトクラブ』

 『バウンド』でエッジの効いた演出を見せたウォシャウスキー兄弟による21世紀型SF映画。
 『タイタニック』『スターシップ・トゥルーパーズ』『プライベート・ライアン』などの「大量死映像」を経て当時最先端のSFX技術が可能にした究極のヴィジョン、それは「この世界の否定」であった。
 昼間は冴えないサラリーマン、夜は凄腕ハッカーという主人公が知らされる「この世界は偽物である」という真実。「現実社会の破壊」「肉体性の復権」「革命」「救世主」・・・・実は『マトリックス』は『ファイトクラブ』と同じ立地点にある背中合わせの兄弟作品である。両クリエイター達のダークな精神が生んだ、同レベルに危険で甘い香りを放っている作品なのだ。
 デジタルSFXの斬新な映像に度肝を抜かれたが、日本のコミックからの影響をこれほど感じさせるハリウッド作品も珍しかった。特に、初めて『ブレードランナー』と肩を並べ得たSF映画である押井守監督作品『攻殻機動隊』に「インスパイアされた」などという言葉では足りぬほど酷似したヴィジュアルを創り上げたことで、ポスト『ブレードランナー』の栄誉さえ勝ち取った感すらある。
 問題作『JM』でも「サイバーSF」との相性の良さを見せたキアヌ・リーヴスであるが、彼なしにはこの作品は成り立たなかったほどのハマリ役。『マトリックス』の要であるスタイリッシュさ、東洋哲学、そしてボンクラ性・・・・・すべてはキアヌならではなのである。

 大ヒットして案の定続編が制作されたが、フルCG映像を多用したおかげで「肉体性」を失い、魅力のカケラも無い陳腐な“リアル・ワールド”に舞台が移って行くに従って危険な香りも散り、悪い意味での“マンガ”に成り果てた。
 「カレー味のうんこ」か「うんこ味のカレー」のどちらを選ぶのか?という、人間のアイデンティティにとって最重要な命題を、登場人物の誰よりも真剣に考えていた裏切り者=サイファーをこそ、ネオやモーフィアスの敵に据えるべきだったのではあるまいか。

 ちなみにこのポスターは、コロンバイン高校での所謂「トレンチコート・マフィア」事件の波をモロに受けるという憂き目に遭い、一時期は回収騒ぎに発展した。