MERRY CHRISTMAS MR. LAWRENCE   
『戦場のメリークリスマス』(1983年)


1983. British Vertical. 30X40 inch. Rolled.

■坂本龍一とビートたけしにとっての洗礼

 当時この作品は、制作発表、撮影から公開まで「センセーショナルづくし」であった。何と言っても意表をつくキャスティングに話題は集中。デヴィッド・ボウイはさておき、坂本龍一とビートたけしにとってこの作品への出演は、彼ら2人のその後の歩みに大きな方向付けをもたらしたはずである。
 カンヌ映画祭への参加の折、坂本は本作品のプロデューサーであるジェレミー・トーマスを介してベルナルド・ベルトルッチに出会い、一方のビートたけしにとっては後に撮ることとなる自身の監督作が日本よりも先に各国の映画祭で認められるというヨーロッパ市場志向への「洗礼」であったと思う。
 ただ、YMOのファンであり「オレたちひょうきん族」をかかさず見ていた小生にとって、初めての大舞台での彼らの稚拙な演技には恥ずかしくて目も当てられなかったと記憶している。そんな気恥ずかしさに慣れ出した2回目以降、やっとこの「正々堂々大島作品」の魅力を味わえるようになったものだ。
 第二次大戦下、南洋の島の捕虜収容所で繰り広げられる敵味方や階級を超えた魂の交流。所長ヨノイ大尉(坂本)にとっては「国家」、俘虜ジャック・セリアズ(ボウイ)にとっては「弟」、それぞれ泣きどころを持つ男達は時に濃厚な男色の匂いを撒き散らしつつ、ぶつかり合い死んでいく。決して泥臭く下品にならなかったのはスタイリッシュな美術や撮影によるものだろう。
 今では安いクリスマスソングに成り下がった感のある坂本龍一によるテーマ曲だが、この作品における音楽の功績は多大だ。死刑執行を目前にハラ軍曹(ビートたけし)の見せる笑顔のクローズアップとジャストのタイミングで流れるテーマに思わず落涙した人は多いはずである。

 この作品のポスターは各国ともイラストを採用しているものが多い。しかしほとんどは「とにかく似てない」。特に坂本とたけしはひどい描かれようだ。各キャラの写真を置き、浮世絵風イラストでまとめたこのポスターはベストなデザインだと思う。


1983. British Quad. 30X40 inch. Rolled.

■このイラストは似ている

 そんなイラスト版ポスターの中でも比較的まともなのがこのイギリス横版だ。各キャストがそれなりに似せて描かれているし、何と言っても映画本編で使用されたタイトル文字を用いているところが憎い。蛾も刀もジャングルもちゃんと描かれている。
 だが、この空はどうだ。朝焼けなのか夕焼けのつもりなのか、いずれにせよこの毒々しい深紅に染まった空がこのポスター全体のトーンを決めちゃっているのはいかがなものだろう。こんなにおどろおどろしい映画だっただろうか。これで一体客が入ったのだろうか。珍品としての輝きを放っている魅力的なポスターではあるが。
 下にロンドン市内の映画館の館名が印刷されているのがうれしい。