NAKED LUNCH
『裸のランチ』(1991年) |

1991. US 1 Sheet. 27X40inch. Double-sided. Rolled. |
■全ての理性を抹殺せよ
様々な理由から映像化不可能と言われていたウィリアム・S・バロウズの同名小説を映像化したのがクローネンバーグであったことは別に驚くべきことではない。むしろ当然のことのように思える。
『ビデオドローム』までの作品群には随所にバロウズ・テイストが溢れていたし、クローネンバーグもバロウズの影響を認めている。しかしそればかりか、なんとバロウズの方もクローネンバーグ作品のファンであったのだ。映画化の際とかく揉めがちな原作者と監督だが、この作品にそれは無かった。
まともに映像化すればSFXのオンパレードになってしまうばかりか、とても一般公開など出来ないようなシロモノになること必至の小説『裸のランチ』を、クローネンバーグ自身が大胆過ぎるくらいに脚色。ステレオタイプの麻薬体験描写を避けSFXも最小限にとどめ、1人の作家の魂がたどる彷徨と再生のドラマを(実験映像作品ではなく)「ドラマ」として描き切ったクローネンバーグの手腕はここでも天才的である。『ザ・フライ』よろしくバロウズの小説とクローネンバーグ哲学の融合から生まれたのは、誰も予想出来なかった『裸のランチ』だったのだ。
この作品で華々しく幕を開けたクローネンバーグの90年代には「タブーへの挑戦者」という印象がつきまとうことになる。キャッチコピーにもなってる言葉「全ての理性を抹殺せよ」・・・・・そういうことなのである。
クローネンバーグ作品のポスター中最も美麗なUS版ポスター。額縁の中を這う模様は「ムカデ」。
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1992. British Quad. 30X40inch. Rolled.
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■ランディ・ボールスマイヤーによるタイトル
前作『戦慄の絆』に引き続いてランディ・ボールスマイヤーが担当したタイトル・バックが、ソール・バスの往年の名デザイン群を思わせてなんとも美しい。2色の紙が交差したところに現れるタイトルが、このUK版ポスターにあるグラフィカルなロゴである。
ピーター・ウェラーの顔のアップ(眼鏡にはタイプライターを叩く手が映り込んでいる)と大ムカデのイラストだけというシンプルなデザインは、上記US版との勝負を諦めてしまったかのごとき平凡さではあるが、右側に浮かぶタイトル文字のインパクトがそれを補って余りある。
ビル・リー(=バロウズ)の妻を演じたジュディ・デイヴィス、ビルにタイプライターを貸すゲイの作家(=ポール・ボウルズ)にイアン・ホルム、バロウズ小説のキー・パースンであるドクター・ベンウェイにロイ・シャイダーなど脇役のキャスティングがクローネンバーグのセンスを感じさせる。彼の作品は毎回キャスティングが魅力的だ。
93年には渋谷の西武百貨店で「クローネンバーグの映像美術装置展」が開催され、この作品に登場するマグワンプ(下参照)やバグライターばかりか、過去の作品のプロップ(小道具)が大挙展示された。ファンとしては正に至福の時であった。
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US Video AD. 27X40inch. Rolled. |
■ホラー映画なのか?
劇中、重要な役を担う怪物「マグワンプ」とピーター・ウェラー演じる主人公ビル・リーをフィーチャーしたビデオ販促用ポスター。タイトル・ロゴも何やらおどろおどろしい。世界的に大ヒットした『ザ・フライ』を意識してかビデオの方は「ホラー物」として売りたかったようだ。
それにしてもマグワンプ・・・・バロウズに似てる。
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