REAR WINDOW
『裏窓』(1954年)

2000. US 1Sheet For Restored Version. 27X40 inch. Double-sided. Rolled.

■武藤礼子の声が聞こえる

 使用された写真、ロゴ、レイアウト、全てが完璧だ。デジタル技術を駆使して甦ったヒッチコックの名作スリラーはそのポスターにもデジタル技術が施され、新しいデザインを打ち出した。初公開版と違うのはジェームズ・スチュアートが持つのが双眼鏡ではなく望遠レンズ付きカメラであること、そしてヒロイン=グレース・ケリーの大胆なフィーチャーである。ベッドに横たわって流し目を送るグレース・ケリーの気品ある色香と、オールド・ファッションでワイルドなロゴ(昔の映画やパルプマガジンで使われたような書きなぐり文字)のアンバランスさが何ともエロティックな妄想をかき立てる。

 その昔、淀川長治の「日曜洋画劇場」で放映された際、グレース・ケリーの吹き替えを担当したのは武藤礼子であった。アニメ『ムーミン』のノンノン、『ふしぎなメルモ』のメルモ、『ど根性ガエル』のヨシ子先生などでお馴染みの声優。「この人の声は濡れている」と評したのは漫画家のとりみきだったか、誰だったか。

 武藤礼子の声が湛えるおしとやかなフェロモンは、日本の女優で言えば若尾文子などに通ずるものかも知れない。とにかくあの声で「しょうがない人ネェ」「困ったワァ」「んも〜、ヒドい人」などと言われたいのだ、おれは。

 だからこのTV版『裏窓』を見た時、グレース・ケリーの美貌よりもむしろ、あの唇から湧き出す武藤礼子の声にもうノックアウトされたのだった。だからこのポスターを眺めると聞こえて来るのだ、あの声が・・・・(おいおい大丈夫か?)。