RESERVOIR DOGS
『レザボア・ドッグス』(1992年)


1992. US 1Sheet. 27X40inch. Rolled

 タイトルの「RESERVOIR」(倉庫、貯蔵室)にかけたのか、ダンボールに印刷されたような演出のポスター。
公開の小規模と、後のタランティーノのブレイク度の落差が引き起こしたこのポスターのレア度は恐ろしく高い。
当然のことながらリプリントやフェイクが市場を占めている。

■救世主 タランティーノ

 「オマージュ」と「パクリ」・・・・そのどちらとも言えない「サンプリング&リミックス」(80年代に登場した音楽スタイル)を映画において実践した最初の成功例ではなかろうか。チョウ・ユンファ出演の香港映画『友は風の彼方に』をベースに、時間の流れ通りに語られない展開はキューブリックの『現金に体を張れ』、男達が互いを色で呼び合う様は『サブウェイ・パニック』、彼らのセリフの端々で聞かれる映画やTVへのオマージュ、全篇を彩る70年代ポップス(相当シブい)・・・・いわゆる「オタク」ならではの情報量とそれを空回りさせずに物語の血や肉とする見事な手腕。そして、大胆な省略と時制の入れ替えがもたらす語り口の妙。題材の枯渇が深刻化しつつあったアメリカ映画界にとってクエンティン・タランティーノは救世主に映ったはずである。

■フィルム・ノワールで笑う

 強盗計画のメンバーに覆面刑事がいたことから疑心暗鬼に駆られ自滅していく男達の悲喜劇。開巻早々マドンナの『ライク・ア・ヴァージン』をネタに展開される彼らのあまりにもな「おしゃべりっぷり」とチップを払うか払わないかで揉める馬鹿さ加減・・・・過去のフィルム・ノワールにあってはならなかったこれら「おバカな」要素と、その後流されることになる大量の血との温度差が凄すぎる。
 揃いも揃った曲者俳優たちが生き生きと演じるキャラクターが何しろ新鮮。中でもMr.ピンク役のスティーヴ・ブシェーミとMr.ブロンド役のマイケル・マドセンがスーパー・クールだ。裏切り者ティム・ロスを抱きかかえ泣き叫ぶハーヴェイ・カイテル、そして銃声。幕切れと絶妙のタイミングで流れ出すニルソンの曲「ココナッツ」。その乾いたメロディが誘う可笑し味がなんとも心地よい。
 処女作はその作家の才能の源泉だ。タランティーノが歩み出した監督人生の将来が少々心配になるほど、『レザボア・ドッグス』の完成度は高かった。ま、杞憂に過ぎなかったが。


■US版ポスターの疑問点

Five Total Strangers
Team Up For The Perfect Crime.
They don't Know Each Other's Name.
But They've Got Each Other's Number.

 これは上記のUS版ポスターの左上にあるコピーである。ここには疑問点が2つある。1つ目はチームを組むのは5人ではなく6人であること。2つ目はお互いを「番号」などで呼んではいないということである。これはどういうことだろうか。デザイナーの勘違いがスルーしてしまったと解釈していいのだろうか。それに並んだ5人の顔をよく見てみよう。真ん中のパーマ頭の男はクリス・ペン扮する「ナイスガイ・エディ」である。エディはボス=ジョーの息子であるからチームのメンバーではない。つまりこのポスターは、タランティーノ扮する「Mr. Brown」とローレンス・ティアニー扮する「Mr. Blue」を除外して替わりにナイスガイ・エディを加えた5人のチームという大嘘をついていることになる。ま、イカすデザインだからいいけど。




1992. French. 47X63inch. Folded.

この映画と言えばやはりこのデザイン。まるでジョン・ウー作品の一場面のようだ。

■「仁義なき男たち」

 92年のカンヌ映画祭(審査員長はジェラール・ドパルデュー)でその過激さから大変なセンセーションを巻き起こした新感覚ヴァイオレンス映画・・・・と言ったような話題ばかりが先行し、93年に日本公開するや「どれどれ」と駆けつけたところが劇場(渋谷シネマライズ)は大して混んでおらず、目当ての過激なヴァイオレンスもまあそれほどでもなかった(いや凄かったんだけどもっと気絶しそうなものを期待してたもので)。
 しかし、キャラクターの魅力と展開の面白さ、良くぞ考えついたと言いたくなる選曲、そしてなによりも全篇に漂う乾いたムードが強烈な印象を残し、北野武作品『ソナチネ』が無ければこの年のベストに選んでいたかも知れないほどのお気に入りになったと記憶している。後にビデオ発売されてからカルト化(初ビデオ化の時のタイトルは『仁義なき男たち レザボア・ドッグス』であった)したが、この作品に対する一般的な評価はやはり『トゥルー・ロマンス』の大ヒット、続く『パルプ・フィクション』のカンヌでのグランプリまで待たねばならなかった。 



1993. British Quad. 30X40inch. Double-sided. Rolled.

チーム全員が揃ったイギリス版ポスター。
なぜかナイスガイ・エディまで黒いスーツで登場している。

■ネーミングセンス

 タランティーノはキャラクターのネーミングセンスが良い。『レザボア・ドッグス』で言えば・・・

「ラリー・ディミック」(「Mr. White」の本名)
「フレディ・ニューエンダイク」(「Mr. Orange」)
「ヴィック・ヴェガ」(「Mr. Blonde」。『パルプ・フィクション』でトラボルタが扮した「ヴィンセント・ヴェガ」は弟)
「マーヴィン・ナッシュ」(Mr. Blondeに耳を切られる警官)
「保護監察官ジャック・スカグネティ」(セリフにある名前だが、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』ではトム・サイズモアが演じている)

などという具合。『トゥルー・ロマンス』では主人公「クラレンス」と「アラバマ」(この名前は『レザボア〜』にも登場)以下「ココッティ」「ドレクセル」「ドノヴィッツ」などがやはり記憶にある。一度聞いたら忘れられない名前(特に姓のほう)ばかりなのは小生だけだろうか。

■黒スーツのナイスガイ・エディ

 『レザボア・ドッグス』各国版ポスターの中で、「White」「Orange」「Blonde」「Blue」「Pink」「Brown」の6人が勢揃いした(恐らく)唯一のポスターが上記UK版である。一見メインタイトル・シークェンスから抜き出したような写真だが、よく見るとナイスガイ・エディが他の6人と同じように黒のスーツを着ている(上記US版もご覧のとおり)。このシーンどころかエディが黒のスーツを着て見せるシーンなどこの映画のどこにも存在しないのに。パブリシティ用のスティルと考えるべきだろうが、何故このような変更がなされたのだろうか?バッチリと黒でキメた6人を見たクリス・ペンがストーリーや設定を無視して「おれも着たいぞ!Fucker!」とワガママを言ったのだろうか。むむ・・・どうにもそんな光景を想像してしまう。
 そんなクリス・ペンが、このポスターがロンドンから到着するのを待っている間に亡くなった(2006年1月24日)。享年40歳。小生と同い年であった。

 黒いスーツに黒いネクタイで仕事に赴く男たち。その恰好がお互いへの喪装となろうとは、この時点では誰ひとり考えてはいなかった。

 『グッドフェローズ』同様、誕生した瞬間にモダン・ノワールの伝説となることを運命づけられた作品。