SEX, LIES, AND VIDEOTAPE
『セックスと嘘とビデオテープ』(1989年)

1989. US 1 Sheet. 27X40inch. Rolled.

■ソダーバーグがあんな大物になるなんて

 この年のカンヌ映画祭でグランプリをさらったのはまだ無名の若い監督による風変わりなタイトルの小品であった(この時の審査委員長はヴィム・ヴェンダース)。
 男盛りの夫。貞淑な妻。奔放なその妹。三角関係にある彼らの前に夫の学生時代の友人と称する男が現れ、4人の男女の欺瞞と愛憎が白日の下に晒されて行く。
 『ディア・ハンター』でクリストファー・ウォーケンが見せた繊細さと屈折度を彷彿とさせるジェームズ・スペイダーが最高に魅力的だ。出会った女性達に自身の性体験を独白させそれを撮影したビデオテープを全裸で見ながら自慰に耽るという変態ぶり。そんな彼の秘密と、夫と妹の浮気を知った妻アンディ・マクダウェルが夫の友人である変態スペイダーにビデオカメラを向け、彼の心を裸にしていくクライマックスのなんとスリリングなことか。
 さらにその先、クリフ・マルティネスのアンビエントな音楽がクールに流れる中、彼らが徐々に距離を縮め結ばれて行く熱量の推移が凄い。そして何気ないシーンの唐突な幕切れとともに訪れる圧倒的なカタルシスもマルティネスの功績である。彼の素晴らしい才能は後の『トラフィック』や『ソラリス』でも発揮されている。それにしてもソダーバーグがあれほどの大物監督に成長しようとは。