■巨匠の証
今回の主人公はもう1つの現実を知る為に「見ると脳に腫瘍が出来るビデオ」も「喋るタイプライター」も「中枢神経に直結するゲーム機」も必要としない。
シャツを何枚も重ね着し、外界との接触を拒むようにブツブツとひとり呟く精神を病んだ男(レイフ・ファインズ)。父親、母親、娼婦をめぐる少年時代の思い出と悪夢・・・・記憶の世界と現実を行ったり来たりする描写は前作『イグジステンズ』と全く同じ方法であり、それが素晴らしい効果を上げている。
プロダクション・デザインに常連のキャロル・スピアが参加していないせいなのか、フェティシズムを感じさせる小道具が一切登場しないからなのか、クローネンバーグのフィルモグラフィ中でも特に地味な仕上がりの今作。パトリック・マグラアの原作・脚本に、舞台となるロンドンと、今までクローネンバーグには縁の無かった題材ではあるものの、それでも完璧に自分のフィールドにとり込んでいるのは巨匠の証か。
サイコスリラー物のポスターで使われるような手書き文字がなかなかイイ感じ。作品の雰囲気以上にダークなデザイン。
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