STREET OF CROCODILES
『ストリート・オブ・クロコダイル』(1986年)

1986. British. 14X22inch. Rolled.

■戦慄の絆

 この作品を初めて見たのは1988年のイメージフォーラムだった。当時四谷にあった映像学校の、視聴覚教室のような、もはや映画館とは言えないような小さな部屋で見たと記憶している。この作品を含む短編4本立てだったか。
 上映作品中最高の完成度を見せたのが、この『ストリート・オブ・クロコダイル』だ。デイヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』にも通ずるような「カフカ的世界」に妖しくうごめく人形たち。錆び、埃をかぶり、朽ち果てるのを待つばかりの不健康な空間に、オリジナル製の人形(主人公)とレディメイドの人形(しかし頭部は開かれ、眼球は不気味に光っている)のダンスが花開く。
 一応原作はあるものの、この約20分の短編にストーリーはあるのか無いのか。しかしそんなことは問題にならないほど、精緻に作りこまれた異形の映像に息をのんだものだ。一体どうやって撮影したのか首を傾げたくなる魔法のような技術。人形や背景を微細に動かしつつ、レンズの焦点を後方から手前へと移動させるという「数学的コマ撮り」に驚嘆(しかも35mmフィルムを使っている!)。

 でも最も驚いたのは、これらの作品を作ったクエイ兄弟自身である。なんともハンサムな一卵性双生児で、たった2人だけでこれらの映像を作り上げたというのだ。完成した作品も素晴らしいが、密室でコツコツ制作に勤しむ彼らの姿にこそ本当のインパクトがあるのかも知れない。フィラデルフィアに生まれロンドン王立美術大学(リドリー・スコットもここの卒業生だ)に学んだクエイ兄弟。似た経歴を持つデイヴィッド・リンチには無かったものがこの兄弟にはあったのだろう。
 そしてこの翌年クローネンバーグ作品『戦慄の絆』が公開されることになる・・・・ほうら繋がった!・・・・なんだそりゃ。ちなみに当時のパンフレットを引っ張り出して開いたら、なんと我が師、滝本誠の文章がぁ〜!

 小さいながらもシックでムード満点のポスター。あの双子がふざけていろいろ使ってみたんじゃないかと思いたくなるバラバラのロゴがなんとも楽しい。