SYMPATHY FOR MR. VENGEANCE
『復讐者に憐れみを』(2002年)

2005. US 1 Sheet. 27X40inch. Rolled.

■「復讐物」の極北

 『オールド・ボーイ』がカンヌでグランプリを受賞&大ヒットしたおかげで日本でも日の目を見た(日本ていつもこうなんだよなあ)、パク・チャヌク監督による「復讐三部作」の第一弾。
 復讐が復讐を招き、また復讐を呼ぶという「復讐のシステム」を、情け容赦ない残酷さとクール過ぎる視点で描いたこの作品は、『オールド・ボーイ』のファンでさえたじろぐであろう韓国クライム・ストーリーの極北である。

 『殺人の追憶』で役作りのために太りふてぶてしい顔力を前面に出していたソン・ガンホが、ここでは痩せた青白いマスクで復讐者を演じている。自分の娘を殺した誘拐犯を責め立て殺害する際の静かなサディズムが、鋭利な刃物を思わせるガンホの精悍な横顔になんとも似合っている。パク・チャヌク監督の出世作『JSA』でガンホの弟分に扮したシン・ハギュン(市川染五郎にチョイ似)が、復讐の歯車の発端となる、ある意味主人公とも言える聾唖(うーむ・・・・これがまた問題でもあるんだな)の青年を繊細に演じていて素晴らしい。
 ガンホもハギュンも良い・・・・だが一番輝いてるのはペ・ドゥナである。

■ペ・ドゥナに恋して

 『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督のデビュー作『吠える犬は噛まない』でガーリー(girlish)な魅力を振り撒いていたペ・ドゥナ。今回はネットやビラで革命を訴え、恋人ハギュンに誘拐をそそのかすという、かなりトガった役どころなのだが、それでも彼女の可愛さは全開だ。
 韓国の他の女優と違ってリアリティのある魅力。ハギュンとのベッドシーンでのヌードはとにかくドキッとしたし(彼らは当時プライベートで恋人同士だったらしい)、行為の最中での手話というのも堪らない。
 ガンホに捕まり、電流の拷問を受ける時に、ベロッと耳を舐められてからクリップを挟まれるというエロティックな描写も気が利いてるし、拷問後に出来た「水溜り」もナマナマしい。電流・悲鳴・痙攣・失禁・・・・復讐者ガンホでなくともなんだかムフフな場面の連続だ(おいおい)。

■阪本順治、黒沢清、デイヴィッド・フィンチャー

 この作品を見て思い出した映画がある。阪本順治監督作品『トカレフ』(1994年)である。
 幼い息子を誘拐・殺害された父親の復讐譚だが、実行犯である若いカップルが人質の子供と戯れるシーンがあったり、全篇に漂う独特のクールさと残酷さが似ていたり、最後で復讐者もやはり死ぬところなど、そっくりとは言えないが影響があったと思わずにはいられない。
 「復讐三部作」の最終章『親切なクムジャさん』では、黒沢清の1998年作品『蛇の道』(これもまた幼い娘を殺された父親の復讐物)を彷彿とさせる「ビデオを用いた恐怖シーン」を演出したパク・チャヌク。確実に黒沢清のファンでもあると見た。ペ・ドゥナの入ってる<組織>の描き方などはモロ似てるし、見る者の神経を逆撫でする画にも共通するヒリヒリ感がある。
 他にもデヴィッド・フィンチャーなどの影響をも感じさせる(『ファイトクラブ』の饒舌さとヴィジュアル感覚)が、それにしても凄い才能が韓国から出て来たものである。かつて『シュリ』『JSA』など「南北問題」をネタにしたエンターテインメントで日本映画とのレベルの差を見せつけた韓国映画界だが、『殺人の追憶』や『オールド・ボーイ』のようにそれとは関係ない作品が登場するに至って、純粋に韓国映画の底力が脅威となる。
 ポン・ジュノとパク・チャヌク(『ファイトクラブ』の原作者チャック・パラニュークと名前が似てると言っている評論家がいたっけ)・・・・彼らの新作はクローネンバーグやリンチやフィンチャーの新作と同レベルで最も楽しみな映画になってしまった。

 それにしても随分とアカ抜けたタイトル・ロゴだ。「MR. VENGEANCE」=ソン・ガンホを小さく、深刻そうなシン・ハギュンとペ・ドゥナを大きく持って来たのは作品を理解している証拠。
 それにしてもこのペ・ドゥナの横顔・・・・なんとも惚れ惚れするねえ。