■そんなことではプラズマの泉の水を飲めないぞ！

　往年の名作『蝿男の恐怖』を独自の解釈でリメイク。遺伝子レベルでハエと融合し、徐々に肉体崩壊、と言うか新しい生物へと変身して行く天才科学者の姿を、最高の特殊メイクとジェフ・ゴールドブラムの異様な熱演でリアルに映像化。かつて味わったことのないレベルの生理的嫌悪感を撒き散らしつつも、唯一無二のラヴ・ストーリーに仕上げたクローネンバーグはやはり天才である。
　テレポッド（瞬間物質移送マシン）実験でハエと融合したのを知らず「超人」（ま、ある意味超人だけどね）に生まれ変わったと思いこんだ主人公が恋人にもこれを薦めるが、彼女は怯えて尻込みする。彼女をなじる彼のセリフは、「そんなことではプラズマの泉の水は飲めないぞ！」である。これ以降クローネンバーグの科学者的探究心は、外的変容よりも内的なフィジカリティへと向かうことになる。

　ポスターは各国版ともテレポッドの扉からハエの肢が歩み出してるやや平凡なイラストを採用。ゆえにこのＵＫ版アドヴァンスは非常に目を引く。ゴールドブラムの全裸姿をハエの顕微鏡写真に合成しただけではあるが、怖いくらいに拡大されたハエのアップに、恐怖だけではなく美しさをも感じる。しかしハエなんだけどね、ハエ。