TIME SLIP
『戦国自衛隊』(1979年)

1981. German. 23X33inch. Folded.




■暑苦しい

 1977年にアメリカで『スター・ウォーズ』が公開されるや一大ブームとなったSF映画ジャンルへの参入がやや遅れたものの、角川映画は東宝(『惑星大戦争』)や東映(『宇宙からのメッセージ』)のような失敗をせずに済んだ。
 自社から刊行されている文庫本より満を持して選ばれたのは、半村良の異色SF『戦国自衛隊』(80年公開の『復活の日』はすでにこの時制作段階に入っていたはず)。200ページにも満たないこの小説は、文章で読ませる、というよりも、設定の奇抜さ一点で突破したような作品だった印象がある。
 1979年の12月に公開されたこの映画を小生は劇場で見なかった。なんとなく見逃してしまった。だから後にTV放映されたのを見た際、そのクレイジーな面白さに驚き、見に行かなかったことを後悔した。『悪魔が来りて笛を吹く』でさえ見に行ったというのにな・・・。

 主人公=伊庭三尉を演じる千葉真一がいちいち暑苦しい。タイムスリップした先の戦国時代で出会う夏八木勲(長尾景虎、後の上杉謙信)と意気投合してからはさらに暑苦しい。お互いの服や武器を交換し、一緒に馬を駆り、ふんどし一丁になって岩場で波しぶきを受ける2人・・・・どう転んでもホモのデートにしか見えないが、平和ボケした日本で力を持て余していたベテラン自衛隊員がやっと己の居場所を見つけ、戦国時代のパワーゲームに身を投じていく心理を画で見せるシークェンスとしては、非常に判りやすくていい。
 若い隊員の中には、謀反を起こす者(渡瀬恒彦は『皇帝のいない八月』に続き、またもやクーデターのリーダーを演じた)、恋人に逢いに行こうと脱走する者(にしきのあきらがこれまた暑苦しい)、家族を想い村に居ついてしまう者(なぜかかまやつひろし)の他、臆病風に吹かれる者たちや戦うことに無自覚な者もいる。一口に自衛隊とは言え、そこには「世代のドラマ」があり、「青春の光と影」がある。
 アメリカン・ニューシネマの洗礼をモロに受けたであろう角川春樹が作ろうとしたのは、過去の世界に受け入れられず滅びて行くしかない者たちの姿、つまり『明日に向って撃て!』の逆ヴァージョンではなかったか。

 各キャラクターにいちいち見せ場を用意したばかりに、サブエピソードなどを盛り込み過ぎたため、やや散漫な印象が無くもないが、この過剰さこそが『戦国自衛隊』を『戦国自衛隊』たらしめている最大の要素である。
 むやみやたらに配された豪華な役者陣(成田三樹夫、小池朝雄、岸田森、鈴木瑞穂などなどなど!)では飽き足らず、薬師丸ひろ子や草刈正雄まで担ぎ出すというあまりにも売り込み過剰なキャスティング。
 それでも、クライマックスの「川中島の合戦」では、武田側のフォーメーションと頭脳戦をしっかりと描き、最初は歯が立たなかった戦車やヘリコプターなどの未来兵器をやがて倒して行く様子を丁寧に見せていて素晴らしい。やはりCGではないホンモノの迫力(自衛隊の協力を得られなかったため作り物だが)がこれほどのスペクタクル場面を可能にしたと言える。

 ラスト、武器も弾薬も尽き、傷を負った自衛隊員たちと、刀を振りかざし完全に狂っている伊庭三尉(彼はこの世界では織田信長だったのだ)を景虎は皆殺しにする。それが戦国時代というものである。涙ながらにかつての盟友を弔う景虎、そして寺に放たれる火。みるみるうちに紅蓮の炎に包まれる寺。
 熱い。暑い。あ、暑苦しい・・・・う〜ん、こんな映画が好きな小生はホモなんじゃなかろうか。

 この作品がどういう経緯でドイツで公開され、果たしてヒットしたのかしなかったのか、小生は知らない。しかしポスターが複数ヴァージョンと、豪華なロビー・カードまで制作した配給会社の惚れ込みと意気込みは素敵だ。