TOKYO FIST
『東京フィスト』(1995年)

1997. British Quad. 30X40inch. Rolled.

■パクッたな、チャック・パラニューク

 『鉄男』『鉄男U』で感情(主に怒り)による肉体の変容をプリミティヴに描いた塚本晋也の到達点だ。
 ぬるい物質社会の中で忘れ去られていた人間性をボクシングによる肉体へのダメージによって取り戻していく・・・・・っておいおいチャック・パラニューク!『ファイトクラブ』を見て『東京フィスト』を思い出した人は多かったはずだ。
 しかもパラニュークは『鉄男』シリーズも見てるだろう。マッチョ志向とテロリズムだ。塚本作品の信奉者は海外に多い。北野武がヨーロッパ市場で注目を集めるよりも前に塚本は海外の映画祭で既にスターだったのだ(『HANA−BI』がグランプリ受賞の際塚本は審査員を務めていた)。

 
やや倦怠気味のカップルの前に略奪者として現れた男がボクサーだったことから、3人の「愛の肉体破壊」が始まる。リングでの男2人の闘いに対抗すべく体のあちこちにタトゥーと拷問のようなピアシングを施していく女。演じる藤井かほりの凛としたルックスがなんとも美しい。死の予感から弱腰になってる男を猛烈になじる彼女も最高だ。
 最後、3人それぞれが別々の場所で致死量と思われる大量の血を流す。1人は病院のベッドで悲鳴を上げ、もう1人はリングで雄叫びを上げ、女は天使のように光輝く。凄まじいカタルシス。その直後、1人駅のホームに佇む主人公の眼は白濁し、うっすら微笑みさえ浮かべている。
 D・クローネンバーグに世界中で最も近づいた作家をこのラストシーンに見た。