TWISTER
『ツイスター』(1996年)

1996. British Quad. 30X40inch. Double-sided. Rolled.



『ツイスター』の映画看板が竜巻によってズタズタにされてしまった
というメタ的なデザインはイギリス独自のもの。
「息を止めろ。振り返るな」「大自然の暗黒面」というコピーもイイ。

■「竜巻好きの」「竜巻好きによる」「竜巻好きのための」映画

 実は小生は「竜巻」が大好きである。

 TVのニュース映像で流れれば思わず齧りついて固まってしまい、夢にもたびたび見るほどである。何故だろう。きっと数ある天災や気象災害の中で最も「不思議な絵」を見せてくれるからではないか、と思う。
 天空から降りた巨大な「手」が地上の一切合財をなぎ倒すのだ。何とも言えぬ興奮と恐怖。自然への畏敬の念。いつの日かもし本物に遭遇したら、うっとりしてその場から動けなくなってしまうに違いない。

 だからこの映画は、僕のための映画である。
 「スター俳優が出てない」とか「ただの竜巻じゃん」などと不平不満を言う奴は見なくてよろしい。だってこの映画は竜巻好きの、竜巻好きによる、竜巻好きのための映画だからだ。ポスター上部のコピーにある「『ジュラシックパーク』の製作者と『スピード』の監督」なんかどうでもいい。CGIを駆使して、画期的に美しい、完璧な竜巻を創り上げた現場スタッフにこそ敬意を表したい。

 ビル・パクストンが主演ということで、スター不在の映画と言われれば否定はできないが、それでもこの作品後にブレイクするヘレン・ハントの他、花開く前の実力派俳優たちが花を添えているのはドラマ面での見どころである。
 『プライベート・ライアン』の「アパム」ことジェレミー・デイヴィス、『マルホランド・ドライブ』でホームレスを見てショック死してたパトリック・フィッシュラー、そして『イン・ザ・ベッドルーム』で監督へと転身するトッド・フィールド。そして、なんと言ってもフィリップ・シーモア・ホフマンの存在感が、「竜巻チェイサー」という名のマッド・サイエンティストたちに、愛すべき開拓者集団とでも言うべき奥行きを与えていて見事である。

 エンド・クレジット、流れ行く雲や風にそよぐ麦畑などの「ナショナル・ジオグラフィック的」映像群は、エドワード・ヴァン・ヘイレンのかき鳴らすギター・ソロのウットリするようなメロディの援護射撃を得て、『ツイスター』という作品が大自然の猛威へのフェティシズムであったことを、隠しもせず、高らかに謳う。
 そしてもちろん、この映画は、『ライトスタッフ』や『ハート・ブルー』にも通ずるエクストリームな人間賛歌でもあるのだ。

 CG技術の目まぐるしい進歩が、この映画を過去の遺物にしてしまうのはわかっている。
 だが、この映画のスピリットが風化することはない。
 地球上に竜巻がある限り。