VIRUS
『復活の日』(1980年)

1981(?). Spanish. 27X40inch. Folded.

■生頼画伯

 生頼範義(おうらいのりよし)という名前を知らなくても、彼のイラストの1つや2つはどこかで見かけたことがあるはずだ。
 緻密な画力と大胆な構成力に、日本人ばなれした垢抜けたタッチを併せ持った生頼のイラストは、数多くの雑誌の表紙、小松左京、平井和正、大藪春彦らの文庫本カバーやロックバンド「ラウドネス」のLPジャケットなどを華々しく飾って来た。
 また洋画のポスターもいくつか手がけ、『テンタクルズ』『メテオ』などは本編のショボさと不釣合いなほどのスケール感・ゴージャス感を持つイラストに唖然とさせられたものだ。そして1980年には『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』のインターナショナル・ヴァージョンの1つを依頼され(サンリオSF文庫『侵略の惑星』に書き下ろしたイラストがルーカスの目に留まったためと言われている)、生頼版洋画ポスターの金字塔がここに打ち立てられた。

 さて、この『復活の日』という映画、1980年のサマームービーの目玉として公開されたのだが、日本ではポスターに生頼イラスト(角川文庫版カバーとして定着していた)を一切採用しなかった。使われたのは、夕陽をバックに立つ草刈正雄のシルエット、当時売りだった本物の潜水艦、日本でも馴染みのあったオリヴィア・ハッセーなど、写真を使ったデザインばかりであった。ややショボいメンツとは言え、外国人有名俳優をずらりと揃えた、かつてない日本発のビッグな国際映画に、生頼イラストを使う気などそもそも無かったのか、はたまた『帝国の逆襲』とのバッティングを避けたのか。

 細菌兵器による人類滅亡のドラマを全世界的スケールと哲学的パースペクティヴで描き、「映像化不可能」と言われていた小松左京の名作SFを、あの角川春樹が満を持して映画化。ロバート・ヴォーン、グレン・フォード、ジョージ・ケネディ、オリヴィア・ハッセー、チャック・コナーズと明らかに旬を過ぎたハリウッドスターに、草刈正雄、千葉真一、夏八木勲、渡瀬恒彦など、この時代の角川映画の常連を加えたという、(ハリウッドではとっくに流行らなくなった)オールスターキャスト作品。深作欣二のメガホン、木村大作のカメラ、ジャズ界の大物プロデューサー、テオ・マセロの音楽、そして主題歌はジャニス・イアンという豪華スタッフ。潜水艦をチャーターし、遠く南極大陸にまでロケしたという前代未聞の超大作は、もちろん鳴り物入りで公開されたものの、その内容はと言えば、小松左京作品の背骨である「無常感」や「宇宙的視野」を盛り込むのはムリだったとしても、あまりにもいびつなパニック&サバイバル映画に成り下がっていた(そもそも深作ごときに小松SFが理解出来るはずがない)。

 この映画のために生頼は何枚ものイメージ・スケッチを描いている。小説中の印象的な場面を視覚化したそれらイラスト群は、どれもみな映画の一場面のようにリアルで美しい(それもそのはず生頼の画は映画などのスティルを元ネタに描いたものが多いのだ)。出来の悪い映画なんぞを見るよりも、これらの画を見るほうがはるかに良い。『復活の日』という映画は小松左京の原作に負けたのではない。生頼範義のイラストレーションに負けたのだ。

 このスペイン版は、そんな生頼イラストをかなり大きいサイズで見ることのできるうれしいポスターだ。オールスター・キャスト感のある王道的写真配置もこの映画にふさわしい。
 この映画のポスターは、どう考えても、本来こうあるべきだったのだ。