■地獄のメルヘン
セックス&ヴァイオレンス&ロケンローに彩られた地獄のメルヘン。蛇革ジャケットでキメたセイラー(ニコラス・ケイジ)と彼にゾッコンのルーラ(ローラ・ダーン)。このワイルドでホットなカップルの行く先々には、ルーラの母親が仕向けた刺客も含め「おかしな人」「恐い人」「血を流してる人」「面白い顔の人」「気持ち悪い人」たちが次々と現れ、楽しませてくれる。
中でも白眉はウィレム・デフォー演じるニヤニヤ笑いの殺し屋ボビー・ペルー。「醜い歯並びのクラーク・ゲーブル」といったルックスの彼が、強烈な口臭(ゲーブルも実際にそうだったらしい)を武器にルーラに迫る場面や、ドサクサ紛れにセイラーをハメようと目論んだ銀行強盗が失敗、撃たれたはずみに膝をついたら、ストッキングを被った頭を自分が持ったショットガンで吹き飛ばしてしまう、というマヌケな最期まで、もう目が釘付けだった。
あまりにも個性的な脇役が多かったり、本筋とは無関係なエピソードの挿入が激しいせいで、話のテンポが悪く散漫な印象が残るのは否めない。しかしフレデリック・エルムズによる美しい撮影(リンチと組むのはこれが最後になった)が織り成すこの極彩色のクレイジー・ロード・ムービーは、とにかくそのヤケドしそうな熱さで最後まで押し切り、ラストシーン、セイラーの歌う「ラヴ・ミー・テンダー」の甘いメロディをもって「何が何だかわかんねーけどもう愛だよ、愛」という多幸感で見る者を煙に巻く。
リンチ作品に向かって「何故だよ」とか「何だそりゃ」などというツッ込みは当然ここでも無用である。
そして、TVシリーズ『ツイン・ピークス』の世界的大ブレイク真っ只中に公開された『ワイルド・アット・ハート』は、ブームに煽られたのか、はたまた審査員長だったベルナルド・ベルトルッチの粋な計らいか、なんと1990年のカンヌ映画祭でパルム・ドール(この年から最高賞が「パルム・ドール」と「グランプリ」の2つになった)を獲得した。これにはツッ込んでよし。なんでだよっ。
マッチを擦るクローズアップの後、燃えさかる炎に浮かぶタイトルがなんとも美しかった。だからこの作品には火のイメージが付き纏う。それにやっぱりセイラーは蛇革ジャケットを着てなきゃね。
というわけでこのイギリス版ポスターが最高にカッコイイ。
熱過ぎるね。
バカっぽいし。
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