1979. Japanese Special Poster. 40x58inch. Rolled.

■映画と張り合うアート

 『地獄の黙示録』の数ある各国版ポスターの中で最も人気があり、それでいて最も風変わりなポスターである。アート・ディレクションは後に『ドラキュラ』の衣装でコッポラと組むことになる石岡瑛子、イラストレーションはスーパー・リアリズムが売りの滝野晴夫によるもの。大きなサイズから察するに、1979年か1980年(日本公開年)に、劇場もしくは東京都内の主要駅などに貼り出されたものと思われる。
 海外のギャラリーやネット・オークションでは$1、000以下の値がつくことはまずない。この映画のイコンの1つであるヘリコプターを大胆にフィーチャーしたデザインから「Japanese Helicopters Style」、下方にサーファーを描き込んである為「Charlie Don't Surf Poster」(劇中におけるキルゴア中佐のセリフ「チャーリー(ヴェトコン)はサーフィンなどせぬ!」から)などの通称で呼ばれるポスター。

 どんよりとした空、鋼鉄の棺みたいなヘリコプター、逆巻く波、1人のサーファー。
 リアルな描き込みと奇妙な奥行きが拮抗するこの超現実的な図像は、作品最大の見せ場であるヴェトコン村空襲シーンをデフォルメして再現しただけではなく(ワーグナーの『ワルキューレの騎行』が聞こえてくるようだ)、戦争のマチズモ・美・死・狂気を1枚の紙の上に定着させ、『地獄の黙示録』という2時間半の映像作品そのものと張り合えるほどのインパクトを勝ち得た、真のアートである。

 しかし、どういうわけかこのポスター、国内のショップやオークションには皆無なのが謎である。江戸期の絵画のように、海外流出してしまったようなのだ。
 なお、同コンビによる別ヴァージョンのポスターが制作されているが(マーロン・ブランドのヘッド・ショットと炎を上げる密林、という絵柄)、こちらの方はどういうわけか正真正銘幻のポスターになってしまった。N.Y.のコッポラの事務所の入り口に掲げてあるのを雑誌で確認したのみ。気難し屋だったマーロン・ブランドの逆鱗に触れ、回収・廃棄されでもしたのか。謎である。



Thai. Limited Reproduction. Rolled.

■ザッツ黙示録!

 凄まじい光景である。これこそ「黙示録」ではあるまいか。
 紅蓮の炎が壁のように吹き上がり、ヘリコプターが群れ飛び、オカマ化粧のカーツ大佐のアップがおどろおどろしい。ウィラード大尉は勿論、劇前半の最重要人物キルゴア中佐(R・デュヴァル)の勇姿、デニス・ホッパー演じるフォト・ジャーナリスト、哨戒艇の乗組員ランス(サム・ボトムズ)、ウィラードの前任としてカーツ暗殺に赴いたコルビー大尉(スコット・グレン)までが顔を見せ、「カーツ帝国」の住人たちも大挙参加してにぎやかさを増す。右側には哨戒艇、何故か女性と抱き合うウィラード(オリジナル・ヴァージョンでは女性とのエピソードは削除されていたのに)、上陸艇、白塗りのカーツ軍団が配置され、その奥には「ド・ラン橋」が横たわり、左端のD・ホッパーの横には髑髏、迷彩メイクのカーツ、ヤシの樹にはご丁寧に死体までぶら下がってるという絢爛たる地獄絵図。
 「詰め込めばいいってもんじゃねーだろっ」と思わずツッこみたくなるが、このポスターの圧倒的なスケール感はこれら過剰な描き込みの賜物である。果たして『地獄の黙示録』とはこのように壮大なスケールの戦争アクション超大作だったのだろうか?答はイエスだと思う。少なくともジョン・ミリアスが最初に書き上げた脚本のヴィジョンは、こんな世界ではなかっただろうか?

 タイでは有名なポスター・アーティストTongdeeによるアート。オリジナルは2枚の紙から成るがこれはTongdee本人監修の下Thai Movie Postersによって制作されたリプリントである(通し番号とサインが入っている)。タイの気候風土を考えれば状態の良いオリジナルが市場に出ることは無いだろう。よってこのリプリントで全くOK。