2006年ポスターマン映画大賞


総数

143本  2006年は新文芸坐に足を運ぶ回数がグンと減った分総数の方は激減だが、なにしろ中身が良かった。新作の外国映画に関しては前年の不作を吹き飛ばすような豊作。これほど充実したのは『スターシップ・トゥルーパーズ』や『プライベート・ライアン』のあった1998年以来のことか。しかも、小生にとってどうでもいい作品ばかりが毎回タイトルを並べるアカデミー賞だが、主要部門ノミネート作品を全て見るという、なんとも不思議な年でもあった。

新作外国映画

67本
新作日本映画 20本
旧作外国映画 5本
旧作日本映画 51本


■ベスト10

2006年に公開された新作映画から10本を選びました。

1. 『ミュンヘン』

2. 『パプリカ』

3. 『ブロークバック・マウンテン』

4. 『ローズ・イン・タイドランド』

5. 『ナイロビの蜂』

6. 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』

7. 『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』

8. 『クラッシュ』

9. 『ホテル・ルワンダ』

10. 『グッドナイト&グッドラック』
 何と言っても『ミュンヘン』。かつてTVシリーズ「コンバット」を最新技術で「リメイク」したスピルバーグは、今回70年代国際謀略映画を見事に復活させた。細部に渡って再現された70年代ヨーロッパのムードや流麗なカメラワークなど、どこまでも小生のツボを突きまくる作品だった。3度も劇場に足を運んだのはこれと『ヒストリー・オブ・バイオレンス』だけ。

 『パプリカ』は、久し振りにアニメならではの興奮と魔法で酔わせてくれた挙句に、ラストでかかる平沢進のテーマ曲で完全にKOされた。今敏、恐るべし。もうジブリなんかいらない。

 ヒース・レジャーの佇まいと美しい音楽が印象に残った『ブロークバック・マウンテン』は、年末に再見して3位に決めた。今更だが、これほどの傑作がアカデミー作品賞を獲れないのが解せない。ま、色々と「大人の事情」があるんだろうが。

 『ローズ・イン・タイドランド』は1度しか見てないものの、主演のジョデル・フェルランドちゃんの無垢な笑顔が瞼に焼きつき、嬉声が耳から離れない。あれからずっと。テリー・ギリアム作品史上最も狂っていて最も可愛い作品。

 『ナイロビの蜂』は当初『ミュンヘン』の後につけていたが、2度目の鑑賞で憑き物が落ちてしまった感あり。とは言え、見ている間の興奮の度合いで言えば『パプリカ』の次。

 クローネンバーグの新作は、「オトナ」だった。好き放題に自身の哲学・宇宙を展開して来た彼だが、初めて「アメリカ」を真正面から描こうとしたことに驚きを覚えた。それでも人体破壊描写へのこだわりも見せてくれたので安心。

 トミー・リー・ジョーンズの初監督作品は素晴らしかった。イーストウッドを礼賛するのも結構だが、こういう作品にこそ真のアメリカがあるような気がする。

 『クラッシュ』のマット・ディロンが助演男優賞を逃したことが全くもって信じられない。あの作品で最も素晴らしかったのは彼だ。

 ドン・チードルの代表作になるであろう『ホテル・ルワンダ』、デイヴィッド・ストラザーンの代表作になるであろう『グッドナイト&グッドラック』、ともに脇役俳優が俳優生命をかけて主役を張った作品。もうそれだけで胸がいっぱいです。
 
 実は、7位〜10位はほぼ同率。重たい作品が並ぶ中にあって、『パプリカ』『ローズ・イン・タイドランド』の存在は貴重。ちなみに、『ローズ〜』『メルキアデス〜』以外は全て2回以上鑑賞。


■ベスト・アクター&ベスト・アクトレス

2006年最も輝いていた男優と女優。

デイヴィッド・ストラザーン  自分が本当にゲイではないか、と疑うほどこの人の相貌に惚れ惚れした。「オヤジ萌え」としてはクリス・クーパー以来か。他の作品ではこんなにかっこいいストラザーンは望めないだろう、という意味では『ライトスタッフ』のサム・シェパードと同系列か。
 2006年は「オレにおける‘ブロークバック年’」・・・・と言っていいのか・・・・むむ。
蒼井 優  と、同時に何故か「ロリコン宣言」の年でもあった2006年。『ダウン・イン・ザ・バレー』のエヴァン・レイチェル・ウッドから始まって、久し振りに再見した『時をかける少女』の原田知世、『ローズ・イン・タイドランド』のジョデルちゃん、『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリンちゃん、そしてハードコア・ロリータ映画『エコール』と、様々な美少女や天才子役に目が釘付けであったが、小生の薄汚れた魂を最も浄化してくれたのは『フラガール』の蒼井優であった。19歳下だからロリコンではなく単なる年の差カップルなのだが(カップルって、あんた)。


■ワースト

2006年、金と時間を返して欲しかった作品たち。

1. 『犬神家の一族』

2. 『嫌われ松子の一生』

3. 『エミリー・ローズ』

4. 『シリアナ』

5. 『ナイトウォッチ』
 旧作があまりにも好き過ぎてはなから期待なんぞしてなかったのだが、『犬神家の一族』のダメっぷり、成立してなさっぷりは目を疑った。「居眠り」ではなく「意識的な睡眠」を映画の最中にとったのは久し振り。願わくばあんな映画が市川崑の遺作にならぬことを・・・・。

 『嫌われ松子の一生』は、小生の苦手な中谷美紀が歌ったり踊ったりするのが怖くてダメ。じゃあ中谷じゃなかったら良かったのか、と考えてみると、結局あの監督のああいう演出がイチバン嫌いなのかも知れない、と気付いた。なのでもうあの監督の映画は2度と見ません。

 『エミリー・ローズ』は「オカルト」+「法廷劇」という着想(ま、実話らしいけどね)は良いものの、結局は手垢にまみれたホラー映画に成り下がってた。あの新人女優の顔ももう見たくないね。

 『トラフィック』の脚本家の手による実録風社会派サスペンス、しかもテロ絡みとくればどうしたって期待してしまうのが人情の『シリアナ』だったが、語り口のまずさ、キャラクターの魅力の無さでちっとも楽しめず。ジョージ・クルーニー(情事狂う兄)があれでオスカー獲ったとは「???」だな。

 光と闇の戦い、とかもういいよ、飽きたから、ってことで『ナイトウォッチ』もダメ。映像が面白ければいいかとも思ったが、これがまたどこも新鮮味ナシ。

 他に『東京ゾンビ』『ダ・ヴィンチ・コード』『サイレントヒル』『ハチミツとクローバー』などひどい映画は他にもあったが、特に取り上げたいのはこの5本くらいかな。
 ちなみに『レディ・イン・ザ・ウォーター』は「名誉ワースト」ってことで。


■ベストでもワーストでも凡作でもなく・・・・

2006年、それでも忘れられない作品たち。

 『グエムル 漢江の怪物』

 『ブラック・ダリア』

 『太陽』

 『花よりもなほ』

 『マイアミ・バイス』

 『カポーティ』

 『トゥモロー・ワールド』
 『グエムル』のポン・ジュノ監督は、『殺人の追憶』の後だけに、しかも怪獣映画と聞いては期待せずにおれなかったが、完成度は今イチ。いたる場面で彼の持ち味は出ていたものの、どこか統一感に欠けていたのかも。それでも面白かったのは確かだが。

 『ブラック・ダリア』は、エルロイの原作があれほどまでにブライアン・デ・パルマ色が濃厚だったくせに、当の本人が監督したらなぜかデ・パルマ色が薄まってしまったという怪現象を見せた。それでも駄作と片付けられないおかしな魅力を放っているが(K・D・ラングが歌うレズビアンバーのシーンは最高)、いかんせんヒラリー・スワンクが大きく足を引っ張った。

 『太陽』と『カポーティ』は大モノマネ大会だった。あの身体機能へのフェティシズムとも言うべき究極の形態模写が昭和天皇やトルーマン・カポーティの精神面をさらし出すことはなかったが、あの「形へのこだわり」の凄まじさはとにかく映画的だった。

 『誰も知らない』で小生を打ちのめした是枝監督の『花よりもなほ』も素晴らしかった。肩の力の抜けたリアルさはこのところの時代劇にあって異彩を放つ。古田新太はじめ存在感あり過ぎの脇役たちがナイス。

 クライブ・オーウェン主演ということで全く期待せずに見た『トゥモロー・ワールド』はかなりの拾い物だった。地味ではあるが非情に良質のディストピア映画。「クリムゾンキングの宮殿」が響き渡る場面では本当にクラクラした。


この次はモアベターよ。
(by 小森和子)