1987. German. 23X33inch. Rolled.

■愛の神秘

 US版・UK版のような<『風と共に去りぬ』スタイル>のポスター以外では、本編からカットしてしまった場面をイラストで再現した(ビリヤード台に縛り付けられた女)イタリア版やイザベラ・ロッセリーニの扇情的な下着姿のイラスト(あまり似てない)をフィーチャーしたトルコ版、あまりにもカワイ過ぎるポーランド版(子供向け絵本のよう)など、珍品と言えるポスターは存在するが、どれも作品の内容を的確に表現してるとは言い難いデザインばかりだ。そんな中にあってこのドイツ版はひときわ目を惹く。
 語り草になっている映画冒頭の白いフェンスと赤い薔薇、そして何よりもデニス・ホッパーの勇姿を拝めるのが嬉しい。そう、このポスター、ツボど真ん中なのである。強引に挿入されたカイル・マクラクランのシュールさもなんとも味わい深い。

■リンチの耳

 主人公ジェフリーが原っぱで耳を拾ったことから巻き込まれる誘拐殺人事件は、被害者の妻ドロシー(イザベラ・ロッセリーニ)のアパート「ディープ・リバー」で大団円を迎えることになる。危機一髪でフランクを射殺したジェフリー。直後駆け込んでくる刑事とジェフリーの恋人サンディー(ローラ・ダーン)。そして床に転がった電気スタンドの電球が突如明るさを増し、「バシュ」という派手な音をたてて切れる・・・・完璧なタイミングで流れ出すジュリー・クルーズ歌う「Mysteries Of Love」。何度見直しても鳥肌のたつ瞬間だ。
 デイヴィッド・リンチは世界で最も素晴らしい耳を持った映画監督であることを小生は疑わない。



1987. German Advance. 23X38inch. Rolled.

■ケネス・アンガー

 『ブルー・ベルベット』はそのタイトル通りヴェルヴェットのカーテンがスクリーンいっぱいに広がりゆらゆらと揺れるタイトル・バックで幕を開け、そして幕を閉じる。つまり、これから始まる物語は青いベルベットの向こう側で起きる出来事である。
 ゆらゆらと艶めかしく揺らめき、眩暈を誘う青いヴェルヴェット。そして物語が始まると同時に流れ出すボビー・ヴィントンの歌「ブルー・ベルベット」。このイメージの連鎖はケネス・アンガー作品『プース・モーメント』と『スコピオ・ライジング』を否が応でも思い出させる。
 そしてそこに、青いヴェルヴェットへの偏愛を見せるフランク・ブースとしてデニス・ホッパーをキャスティングしたことの何と据わりの良いことか。『イージー・ライダー』のオープニングでオートバイを舐めるように撮って見せたホッパー。あらゆるドラッグに手を染め、ケネス・アンガーの作品世界をリアルに体験して来たホッパー。彼がいなかったら『ブルー・ベルベット』は成立しなかった。
 ついでに言うと、英雄の復活を描いた『デューン砂の惑星』はそのヴィジュアル面においてもアンガー作品『ルシファー・ライジング』と通底しているような気がしてならない。リンチはアンガーからの影響について明言を避けているようだが(笑)。

 このドイツ版アドヴァンス・ポスターはUS版と同じスティル(各国版ともほとんどがこれを採用)を使いながらも、背景には肝である青いヴェルヴェットをちゃんとあしらってある。素晴らしい。しかもこの作品でアドヴァンス・ポスターを制作したのはドイツだけである。偉い。