CHINATOWN
『チャイナタウン』(1974年)


1974. International 1 sheet. 27X41inch. Rolled.

■L.A.ハードボイルドの至宝

 哀愁たっぷりにトランペットのメロディが鳴り響き(音楽はジェリー・ゴールドスミス)、アール・デコ風の文字を使ったタイトルがセピア色の背景に浮かび上がる。1930年代のロサンゼルス、私立探偵J・J・ギテスはある男の浮気調査を依頼されたことから街の権力者の陰謀と愛憎劇へと巻き込まれていく。極上の脚本、優れた俳優たちの演技、贅沢な衣装、ムーディーな音楽、古き良きL.A.を捉えた撮影、そして恐れを知らない演出・・・・・1ミリの隙も無く完璧に構築されたハードボイルド映画「最後の傑作」であり、70年代ハリウッド映画屈指の名作である。

 見るからにアクの強いジャック・ニコルソンが一筋縄にはいかない探偵ギテスを完全にモノにし、フェイ・ダナウェイの神経質で陰のある容貌が事件の鍵を握る女イヴリンに説得力を持たせ、ジョン・ヒューストンは傍若無人にL.A.のフィクサーを演じる。ポランスキー自身もサイコなチンピラ役で出演。初盤でニコルソンの鼻腔にナイフを挿し込み小鼻を一瞬で切り裂くという「大役」を嬉々として演じている。この場面以外にも、水死体の断末魔の表情や、ラストで射殺されるダナウェイの血まみれの顔など、生理的嫌悪感をもよおすショッキングなショットが印象的で、物語の持つ残酷性に華を添えている。この辺がポランスキー演出の「味」であろうか。

■怠け者の街

 J・J・ギテスがチャイナタウンで警官をやっていた頃の悲しい過去と、イヴリンが少女時代に父親との間に作ってしまった秘密・・・・・お互いに傷を持った男と女が行き着く結末は苦々しく、救われないものだった。『カッコーの巣の上で』あたりからすっかり「怪優」扱いされたJ・ニコルソンがここではふてぶてしくも優美な探偵を見事に演じている。表情、セリフ、身のこなしからスーツの着こなしまでそのダンディズムは完璧であり、『チャイナタウン』を「最もかっこいいジャック・ニコルソンを見ることの出来る作品」に指定してもいい。ラスト、眼前で起こった惨劇に茫然自失となったギテスが「怠け者の街だ」と呟き、駆けつけた仲間が「忘れろ、ここはチャイナタウンだ」と肩を抱く。再びかぶさるトランペットのメロディ。

 74年、ベトナム戦争終結後の後味の悪さ、ぎりぎり第二次大戦前の面影を残していたロサンゼルスへのノスタルジー、ヒッピーに妻を惨殺された恐怖を背負った監督、と様々な要素が渾然一体となって完成したこの『チャイナタウン』は、その後作られたアメリカン・ハードボイルド映画の指標であり(『L.A.コンフィデンシャル』なんかモロ)、その特異性からか全く他の追随を許すことの無い孤高の作品である

■ちゃんと水が描き込んであるポスター

 コレクションをしていてこのような出物に出くわすと嬉しくなる。1974年、映画ポスターが折られて当然だった時代にあって、何故か折られることなく現在まで生き延びたポスター。ディーラーによれば、National Screen Serviceが印刷・発行する通常のポスターではなく、パラマウント社が制作した「試作品」(故にRolledなんだそうだ)だと言うがどうだろう。絵柄が同じで白枠内に印刷された情報がUS版と異なる場合、大抵はInternational版なのだ(Rating Boxも無い)。コレクターによってはUS版オリジナルにこだわる人が多いが、何と言っても折り目の無いポスターの魅力は捨て難いのではなかろうか。いずれにせよ激レアである(POSTER-MANとしてはBruce Hershensonの情報にならってこのポスターをInternational版とする)。
 ジム・ピアソール描くあまりにも有名なメイン・アート。いかにもハードボイルド然としたノスタルジックなイラストにクールなタイトル文字。この作品のキーになっている「水」をちゃんとあしらってあるのも憎い。プロデューサー=ロバート・エヴァンス、監督=ロマン・ポランスキー、主演=ジャック・ニコルソン&フェイ・ダナウェイの名前が並んだクレジット部を見るだけでもクラクラする。映画ポスターが美術品であることを示し、ある1つの時代を高らかに記録したアイテムであることを痛感させる好例である。