1974. British Quad. 30X40inch. Rolled.

■『皆殺しの天使』 『裏窓』 『現金に体を張れ』

 ギテスが調査相手である水道局のモウレーを探りに市議会の会議場へ赴くと、そこへ渇水に悲鳴を上げる農夫が羊の群れを伴って怒鳴り込んで来る。画的にはなんとも非現実的かつ愉快なシーン(ギテスは嬉しそうに羊たちを見る)だが、格式ある建物に羊たちが乱入するというこのシュールな映像は、ルイス・ブニュエル監督作品『皆殺しの天使』(1962年)の、羊の群れが教会へと入って行くというラストシーンを想起させる。
 次にポランスキーは、モウレーと若い娘キャサリンの密会を盗撮する場面でカメラのズームレンズに被写体を合成して見せるが、これはもちろんヒッチコックの『裏窓』(1954年)だ。
 ギテスとイヴリンが夫婦を装って探りに訪れる養老院でキルトをしている「エマ・ディル」という名の婦人は、キューブリック監督作品『現金に体を張れ』(1956年)の空港でのクライマックスで、主人公の逃亡計画が失敗するきっかけを作ることになる愛玩犬を連れている老女を演じた女優だ。 

■そして『ブレードランナー』と『セブン』へ

 「Poster Collection」の「BLADE RUNNER」の項でも書いたが、ロサンゼルスという街の草創期と円熟期(腐敗期とも末期とも言える)を描いた作品として、しかも同じハードボイルド映画として『チャイナタウン』と『ブレードランナー』は並べられることがある(海野弘氏の著書だった記憶が)。『チャイナタウン』でフェイ・ダナウェイの家の執事カーンを演じるジェームズ・ホンは、『ブレードランナー』でレプリカントの眼球を製造する科学者チュウを演じた俳優だ。

 『チャイナタウン』のストーリーの核にあるのは、街を作った実力者とその実娘との近親相姦だが、一方『ブレードランナー』では、街を見下ろすピラミッドの最上層に住むタイレル社(遺伝子産業を中心とする巨大複合企業)の社長が、試作品であるレプリカントに彼の姪の記憶を移植しているという悪趣味が描かれる。
 双方とも街一番のリッチマンは変態であり、親元から逃げて来た娘を主人公は助けることになる。

 部長が殺されたため水道局施設部部長室のドアのネームペイントを職人が描き直している場面が挿入されるが、これは『セブン』で定年退職するモーガン・フリーマンの部屋のドアで同じ作業をしている男が映し出される場面へとダイレクトにつながる。しかも、両作品ともラストで残酷にも女が殺され、ショックで放心した主人公とその同僚たちの姿で終わる。

■ビバ!お宝

 70年代までのいわゆるヴィンテージ・ポスターには折り目が入っていることになっている。US版は印刷所の段階で既に折られるからRolledのものは皆無。UK版は映画館に配られ使用された後折って保存されるということらしい。思うに、イギリス人は折り目に頓着しない。90年代以降のポスターでも平気で折られているのを見るとそう思わざるを得ない。折り目どころか破れていても気にせず売り買いされている。日本のコレクターはポスターのコンディションを見るレベルがどうやら世界的に厳しいようだが、それでもイギリス人の「巻いておくとジャマだから折り畳んじゃえばいいじゃん」という発想は目に余る。
 そんな国民性(と言っては乱暴かな)ではあるが、中には折り畳まずに丸めて保存されて来たポスターもある。この『チャイナタウン』のポスターはそんな奇跡的な1枚である。さすがに随所に見られる細かいシワや紙自体の劣化、端のヘタレや小さな破れは仕方ないものの、ピン穴やペーパー・ロスは一切無い。年代を考えればほぼパーフェクトな状態で残っていたと言っていいだろう。
 これほどのお宝を持っていたのは、1950年代からロンドン市内レスター・スクエアのワーナー・ブラザースで企画を担当していた某氏である。彼は仕事上扱っていたポスターやプログラムなどを長年に渡って保存(古いものでは1912年の無声映画のものもあったらしい)、そして市場に流していたようで、今はもうほとんど手元には残っていないという話だ。
 大抵のポスターはディーラーが窓口となってコレクターの手に渡る。しかしごくたまに、このように現場の人間から直接譲ってもらえるというケースもある。1974年のロンドン・・・・ヒッチコック作品の中でも好きな『フレンジー』が1972年であるから、まあほぼあんな頃か・・・・こんな風に思いを馳せるのもコレクションの醍醐味である。

 このUK版ポスターとUS版との差異は、タイトル文字の色(US版は赤、UK版はピンク)および文字の縁にある影の有無であるが、最大の特徴は「周囲に白枠(余白)が無いところ」である。「ナショナル・スクリーン・サービス」の注意書きやタイトルなどを印刷しなくても済むイギリスのポスターならでは。おかげで黒のベースが前面に出て、そのせいかノワール感がグッと増した。加えて、イラスト部分の面積がUS版よりも縦横10cmずつ大きいのもうれしいポイント。