1977. Czech (1st release). 23X33inch. Folded.

■ヤン・シュヴァンクマイエルの国の『チャイナタウン』

 M.Hiavalekなるデザイナーによるチェコ版ポスター。上記ジム・ピアソールによるUS版、インターナショナル版の他に、リチャード・アムセルによるジャック・ニコルソンとフェイ・ダナウェイのイラストを使用したドイツ版、オーストラリア版が有名な『チャイナタウン』のポスターだが、このチェコ版は珍しく写真を使用している。
 「売約済み」の土地の看板を前にしたジャック・ニコルソンと、フェイ・ダナウェイ初登場シーンのスチルを使用したコラージュ。初盤においてポランスキー本人によって小鼻を切り裂かれるニコルソンは、中盤のほとんどの見せ場をこのような顔で演じるハメになる。そして、ラストにおいて後頭部から顔面へ抜けるように銃撃され血まみれになる顔を表現するかのように痛々しく崩壊したダナウェイの顔。2大スターをせっかく写真で配したポスターとしては、あまりにもな内容である。
 そんな2人の姿がコラージュされたチェコ版ポスターだが、あまりにもシュールすぎて作品の内容やテーマをどう捉えどういうアプローチで伝えようとしているのかさっぱりわからない。開かれた窓の向こうに点在するブルーの立体やその上に浮遊する首無しの男は一体何を意味するのか?左端に見える人形の首は?う〜ん、わからない・・・・。おかげでハードボイルド色も皆無だ。
 いずれにせよ、写真を使用していること、しかも何故かこの写真であること、という珍しさが小生の心を捉えた。コレクションのポリシーとしては、チェコ版やポーランド版などの「珍デザイン」には手を出さないことにしているのだが、『サイコ』やこれのように写真を使用している珍品ポスターに関しては別である。




1974. German. 23X33inch. Rolled.

■ジャック・ニコルソンの秘密

 ジャック・ニコルソンは美容院を営む母親のもと、歳の離れた2人の姉を持つ末っ子として育った。両親はまだジャックが幼い頃に離婚していた。俳優になろうとL.A.に行くが下積み生活は10年以上に及ぶ。『トム&ジェリー』を制作していたプロダクション「Hanna-Barbera 」で雑用をやったり、ロジャー・コーマン作品に出演するうちに30歳代に。その間母親はガンで死去する。
 そんな彼が『イージー・ライダー』への出演を機にブレイク、『ファイブ・イージー・ピーセス』『さらば冬のかもめ』と立て続けに話題作に主演、ニコルソンの黄金時代が始まる。
 その矢先、慕っていた長姉がやはりガンにより死亡。そしてニコルソンはマスコミが調べた自身の生い立ちを知って驚愕する。姉だと言われていた女性が実は母親で、母親と称していたのは祖母だったという事実。
 10代で妊娠したジャックの母の世間体を考えた祖母が母親となっていたのである。「母親で姉」「姉で母親」・・・・・出生の秘密へのオブセッションが次回作『チャイナタウン』という映画を引き寄せたのだろうか。
 クライマックスでギテスに頬を張られ、涙ながらに父娘相姦の過去を告白するイヴリン。「妹よ」「娘よ」「妹で娘なのよ。どういうことかわかるでしょ」・・・・『チャイナタウン』という作品が他のハードボイルド映画の追随を許さないのは、ジャック・ニコルソンならびにロマン・ポランスキーの底知れぬ憂鬱に裏打ちされているからに違いない。
 そしてこの作品にとりつかれ続けたニコルソンは、続編『黄昏のチャイナタウン(The Two Jakes)』(1990年)で再びJ・J・ギテスを演じるばかりか、自らメガホンをとることになる。
 イヴリンの妹にして娘であるキャサリンをめぐる陰謀劇を再燃させることで、自身のオブセッションの健在を示したことにはなったが、作品としての出来は前作に遠く及ばず。しかしニコルソンにとっては必要な作品だったはずだ。

 このドイツ版ポスターのイラストを描いたのは『バリー・リンドン』『ナイル殺人事件』『レイダース 失われた聖櫃』などを手がけたリチャード・アムセル。彼の持ち味は卓越した写実性にあるが、そんな画力がいかんなく発揮され、ノスタルジックなハードボイルド世界が見事にキマったこのポスターはピアソール描くUS版と並んで70年代を代表する名ポスターである。
 『マッドマックス3 サンダードーム』のポスター・アートを最後にアムセルは28歳の若さで死去。エイズであった。