DEATH PROOF
『デス・プルーフ』(2007年)


2007. British Quad. 30X40inch. Double-sided. Rolled.

イギリス人デザイナーのこの唯一無二っぷりはまことに天晴れ。
 尻フェチのタランティーノとしては辛抱堪らんだろうな。



2006. San Diego Comic-Con promo.
45.5X30.5cm.


2007. German. 23X33inch. Rolled.

■タランティーノ参上

 タランティーノの『デス・プルーフ』も、最初はグラインドハウス的に幕を開ける。スポーツカーのエンジン音で始まるジャック・ニッチェの曲「The Last Race」が流れ、ダッシュボードに投げ出された女の子の脚を背景に、「QUENTIN TARANTINO'S THUNDER BOLT」という派手なロゴのタイトルが一瞬現れたかと思うと、黒地に「DEATH PROOF」と味気なく浮かぶタイトルに絶妙のタイミングですり替えられる。『デス・プルーフ』が、カッコ付きのアート・フィルムであることを予感させる瞬間。

 オシッコを我慢して股ぐらを抑えた女の子の下半身という、かつて見たことの無いバカなオープニングに続いて、いかにも頭の悪そうな女の子たちの呆れるほどくだらない会話にこれでもかと時間が割かれる。『プラネット・テラー』ほどのフィルム荒れは無い。そのかわり、ここぞという場面で巧くコマ飛びを使う。それは最初に黒いシボレー・ノバが登場する場面だ。ノバがフレームインする直前、前を走っていた女の子たちが乗る車が、コマ飛びによってパッと消滅するのである。単なるフィルムのアクシデントが、この追跡ショットにシュールなバカバカしさと同時に、言い知れぬ不吉さをももたらす。そして、おつむの弱そうな彼女たちに鉄槌を下ろすべく、この映画の主人公「スタントマン・マイク」が登場する。



2006. Spanish. 27X40inch.
Double-sided. Rolled.



2006. Thai. 27X40inch.
Double-sided. Rolled.


2006. 27X40inch. Rolled.

確かレバノンで使われたポスターだったように記憶している。
ボンネット前部あたりにアラビア後のスタンプが押してある。

■スタントマン・マイク

 ジョン・カーペンターのテイストを炸裂させた『プラネット・テラー』を引き継ぐかのようにカート・ラッセルは現れる。カーペンターが創作したSF映画史上に残るアウトロー、『ニューヨーク1997』の「スネーク・プリスキン」を演じた男への、これは最大級のオマージュと言える。カートはスネークというキャラクターに惚れ込み、続編『エスケープ・フロム・LA』では脚本およびプロデュースにも名前を連ねているが、ちなみにこの続編には、スティーヴ・ブシェーミ、パム・グリア、デイヴィッド・キャラダインの弟ロバートと、タランティーノゆかりの俳優たちが出演している。

 ジャングル・ジュリアが携帯メールを使うシーンで流れ、突如として映画のムードを変えるのは、ブライアン・デ・パルマの名作『ミッドナイトクロス』の音楽だ。ピノ・ドナジオによる美しくも哀しいこのピアノ曲は、想いを寄せる女性を死なせてしまった主人公ジョン・トラボルタが悲しみに暮れるラストシークェンスを印象的に彩る曲だった。だから、ジャングル・ジュリアが恋人とメールのやりとりをするあのあまりにも安っぽいシーンにこの曲を使うという、タランティーノの変化球的リスペクトに思わず吹き出してしまったのだが、同時に、あんなことを恥ずかしげもなくやってしまう彼の選曲センスに凄味すら感じた。

 スタントマン・マイクは運転席だけ「耐死仕様(デス・プルーフ)」に改造したシボレー・ノバに、パブで拾った娘を乗せ、カメラに向かって不敵に笑って見せる。シリアル・キラーがカメラ目線でほくそえんだりするショットなどというものは、ホラー映画にはあまり見られない手法だ。
 タランティーノがリスペクトするジャン・リュック・ゴダールの作品には、『勝手にしやがれ』をはじめ、登場人物がカメラを凝視したり、カメラに語りかけたりする、「非映画的行為」がたびたび用いられる。『キル・ビル』でタランティーノはこの手法を大胆に使った。
 しかしこの、映画であることを無視したスタントマン・マイクの大胆不敵な行動は、むしろ昔ながらのカートゥーン・フィルムを意識したものかも知れない(「トム&ジェリー」で最後にジェリーがカメラ目線で肩をすくめたりするアレである)。マンガ的な茶目っ気を殺人鬼に持たせるのも悪くない。思わずギョッとするこういうショットを撮れるか撮れないかの差は大きい。