『デス・プルーフ』の撮影にラバー・ダックを提供したJohn S. Billingsから直接購入した。


結構な重量。国産車のやわなボンネットには恐らくムリ。台座は木で自作した。


アヒルの最も可愛い部位はもちろんここ。

■ラバー・ダック

 彼が転がす黒いシボレーは、ボンネットにドクロがペイントされ、最前部にアヒルのオーナメントが取り付けられている。このオーナメントはサム・ペキンパー監督作品『コンボイ』(1978年)で主人公「ラバー・ダック」(ゴムのアヒルをトラックに付けてることからこう呼ばれる)がシンボルにしていたものを原型にして新たに金属で作った物だ。
 ペキンパーのファンはもちろん、一般の映画ファンにも評判は芳しくなく、当時映画館で見た小生にも面白いとは思えなかった『コンボイ』に、意外なところで再会し、驚いた。大して見せ場の無い、ただ巨大トラックが隊列を組んで走るだけの映画をリスペクトする奴なんてタランティーノぐらいだろう。
 スタントマン・マイクのくしゃみが不発に終わる場面は、タランティーノに言わせると性的不能のメタファーとして撮ったということだ。「性的不能者の殺人鬼」と「鳥」という組み合わせに、ヒッチコックの『サイコ』があるが、とすると、マイクがオーナメントにアヒルを使ってるという設定もなんだか納得出来たりする。



なぜかサイン入りロビーカードを贈られた。

■クラッシュ

 スタントマン・マイクは、助手席に乗せた娘を血祭りに上げるだけでは飽き足らず、ずっと尾けていた女の子たちが乗ったホンダ車の正面に自分の車を衝突させ皆殺しにする。1人は車外に放り出されてアスファルトに叩きつけられ、1人はハンドルに胸を押しつぶされ、1人は窓外に投げ出していた脚をもぎ取られ(この映画で脚フェチを全開にしているタランティーノにとってヌケる瞬間だ)、後部座席でシートベルトを1人締め、「この子だけ生き残るのでは」と思われた前半の主役格であった女の子でさえ、屋根を割って突っ込んで来たタイヤに顔面を「持って行かれる」のだ。
 「耐死仕様」によって無事に生き残ったスタントマン・マイクの病室を後にした保安官親子(『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『キル・ビル』にも登場したキャラ)が語る、「セックスではなく、カークラッシュの衝撃でイク」というスタントマン・マイクの異常な性癖は、J・G・バラード原作、デイヴィッド・クローネンバーグ映画化作品『クラッシュ』を即座に彷彿とさせるものである。
 あの映画で衝突による人体破壊プロセスをスローモーションで見せることをしなかったクローネンバーグは賢明だったが、タランティーノはその真逆をあえてやって見せた。複数のショットやスローモーションを執拗に使い、まるで車の耐久実験フィルムを、ダミーではなく生身の女の子たちで再現するように。なぜなら、『デス・プルーフ』はあくまでも車を使った殺人鬼の物語だからだ。殺しのプロセスはきちんと見せねばなるまい。

 『U.S.A.バージョン』には無く単独バージョンに追加されたシーンはどれも素晴らしいが、中でもスタントマン・マイクが絡むシーンは「なぜこれをカットしたのか」と惜しくなる。ストーカー行為に疲れて目薬を注したり、ロザリオ・ドーソンの足先を舐めるかわりに唾で濡らした指を這わせたり。茶目っ気のあるヘンタイをカート・ラッセルが嬉しそうに演じていて意外だが、その辺がタランティーノのキャスティング・マジックである。