1994. Re-release. British quad. 76 x 102 cm. Rolled.

「政治とセックスを描くベルトルッチの代表作」というコピーを冠したイギリス版ポスター。
1970年当時はロンドン映画祭における上映のみで、その後はシネマテークなどで時折り上映された。
ゆえに、劇場での一般公開は1994年が最初であり、公式のポスターも英国では初制作だった。
盲人たちの結婚祝賀パーティのシーンを復元したレストア・ヴァージョンでの公開である。

■ラスト・タンゴ・イン・パリ

 1988年の秋、ロンドンに1カ月滞在した際に、キングス・クロス駅近くにあった会員制の名画座「Scala」で『暗殺の森』を見た。『ラストタンゴ・イン・パリ』との二本立てであった。目当てはもちろん無修正で上映される『ラストタンゴ〜』の方だった。
 名画座とは言ったが、Scalaの建物はもともと「Kings Cross Cinema」という、1000人も収容出来る大劇場であった。1920年に建てられたこの劇場は、ロンドン大空襲で破壊された後に再建され、所有者が変わるたびに使用目的も変わり、70年代にはロック専門のライヴ・ハウスとして賑わったという。80年代に入ると改装されて映画館として復活。国内外のクラシック・フィルムやアート系作品を日替わり二本立てで上映する良質なシネマテークであった。その後は映画館としての機能を終え、21世紀に入ってからはクラブ・イベントの会場として落ち着いているようだ。

 ベルトルッチは次回作『ラストタンゴ・イン・パリ』で再びジャン=ルイ・トランティニャンとドミニク・サンダを起用することを考えたが、サンダが妊娠してしまったために断念する。トランティニャンと組むことはもう無かったが、サンダは『1900年』でまたもや輝かしいミューズを演じることになる。
 1968年の『PARTNER.』(邦題『ベルトルッチの分身』)に続いての起用だったステファニア・サンドレッリは、この後再び『1900年』でドミニク・サンダと共演。そしてその20年後『魅せられて』にキャスティングされ、ベルトルッチ作品最多出演役者となる。

 少年時代の主人公に同性愛のトラウマを与える男=リーノ(パスカリーノ・セミラマ)を演じたピエール・クレマンティは、ルキノ・ヴィスコンティに見出され(『山猫』)、ルイス・ブニュエルの名作『昼顔』で演じたヤクザ者が印象深かった俳優だ。『暗殺の森』の2年前、ベルトルッチは『PARTNER.』の主役にクレマンティを抜擢し、その後ベルトルッチの師匠=パゾリーニも『豚小屋』に彼を起用する。『暗殺の森』の2年後、コカインとLSDの所持で逮捕されるが、あのパンキッシュな面構えとエキセントリックなたたずまいを思えば、何の不思議もない。

 マルチェッロの運転手兼監視役を務めるファシスト党員マンガニエッロをふてぶてしくも魅力たっぷりに演じるガストーネ・モスキンも素晴らしい。その後『ゴッドファーザー PartU』で若き日のヴィト・コルレオーネに殺される街の顔役を演じることになるが、フランシス・フォード・コッポラによるモスキンの起用は、『暗殺の森』を製作したMars Filmがパラマウントのローマ支社だったというだけでなく、コッポラがプリントをまるまる1本所有するほどの『暗殺の森』フリークだったからに違いない。そしてベルトルッチはと言えば、この後、1歳違いの同邦の「兄」=コッポラを追いかけるように、マーロン・ブランド、ロバート・デ・ニーロ、スターリング・ヘイドンを自作に起用することになる。

 70年代初頭、冬のヨーロッパ。ヴィットリオ・ストラーロが見事にフィルムへと封じ込めた空気と温度を味方に付け、若く才気走ったベルトルッチは異形の歴史ドラマを構築した。徹底的にスタイリッシュな映像の裏には、ヌーヴェル・ヴァーグへの愛憎入り混じったいびつな意思表明が、ラディカルに見え隠れする。

 だが、これで終わりではない。
 ベルトルッチがヌーヴェル・ヴァーグと踊る本当のラスト・タンゴは、次回作だ。




2008. BFI re-release. British quad. 76 x 102 cm. Rolled.

ロンドンのBFI(英国映画協会)がコンスタントに行っているクラシック・フィルム上映に際し制作された。
デザインはこの上映シリーズのポスターを多く手掛ける「EUREKA!」。
アール・デコ調ではないタイトル文字はやはり味気ない。




2011. Bernardo Bertolucci Retrospective. Print on demand. 60 x 84 cm. Rolled.

2011年にBFIが開催したベルナルド・ベルトルッチ回顧上映用ポスター。
BFIショップに発注してのオン・デマンド印刷なのでクオリティは低いが、スティルのセレクトがいい。