犬を連れてイヴニング・ドレスを買いに街へ出るジュリアとアンナ。
2人だけを抜き出して逆向きにしてポスターに使ったのはハンガリー。幻のポスターである。
高級ブティックを巡るシークエンスにあふれるなんともラグジュアリーな空気、そして多幸感。ジュリアが車道の方へ逸れ、ガーター・ベルトで吊ったストッキングを直す場面がエロティック。
それにしても2人とも物凄い襟巻をしている。
上の写真2点にある花屋の前で撮られたスナップだろう。
このように残酷な襟巻(当然本物)が映画の衣装として許された時代があった。
ホテルに戻ったマルチェッロはエレベーターで上流階級の紳士淑女とすれ違う。
主人公夫婦が逗留するのはオルセー宮ホテル。フランス国鉄オルセー駅に併設された大ホテルである。営業は1973年まで、つまりこの映画の撮影中は現役のホテルだった。
その後オルセー駅が地下鉄駅となったため、オルセー宮は駅舎としての役目を終えて歴史的記念建築物に認定。そして1986年、オルセー美術館として復活する。
ダンスホールでタンゴを披露する前に女同士の甘美な芳香をまずここで大胆に振りまいてみせたシーン。原作ではリーナという名の教授夫人。やはりレズビアンという設定だが、ジュリアの方にその気は皆無。
同性愛や近親相姦はベルトルッチ作品の重要なモチーフのひとつ。『ラストエンペラー』には溥儀の正妻・婉容と溥儀の従妹・イースタンジュエルのカラミが登場するが、同作の長尺ヴァージョンには溥儀の弟が弾くヴァイオリンに合わせて婉容と第2夫人・文繍がダンスを踊る場面もある。
マルチェッロを前に、アンナに着せてもらったドレス姿でポーズをとるジュリア。イタリア版ダブルバスタに堂々とコラージュ使用された写真。やはりこれも本編には存在しない場面。
ゴダールやトリュフォーの作品でも衣装を担当したイタリア人デザイナー、ジット・マグリーニによる華麗なドレス。ジュリアが登場シーンで着ていたワンピースと同配色ながら、こちらはアール・デコの本場パリのエスプリ。ダンスホールの場面で「これがパリよ!」と浮かれるジュリアが身に纏う衣装としては完璧。