毛沢東主義に紅く染まった革命戦士ゴダールは、アンヌ・ヴィアゼムスキーを同伴してこんな風にチャイニーズ・レストランでの食事を楽しんだだろう。そして向かい側にはベルトルッチが、ゴダールの隣にはヴィアゼムスキーではなくアンナ・カリーナが座っているべきだった。
マルチェッロと教授の腹の探り合いと、アンナがマルチェッロに向けた愛と憎悪のアンヴィヴァレントな感情とが交錯する中、一人酔っぱらってケラケラと笑うジュリア。
別荘への誘いに返事を濁すジュリアに、アンナは自分の同性愛嗜好(ホテルでの着替えの一件)に彼女が抱いている警戒心のようなものを感じ取る。真顔になってそれを否定するジュリア。
ベルトルッチは複数のインタビューで、アンナ役には当初ブリジット・バルドーを思いついたものの断られたと語っているが、実は当時のゴダール夫人アンヌ・ヴィアゼムスキーにもオファーしている。バルドーとヴィアゼムスキーのどちらが先だったのかは、今となっては藪の中である。
今や敵と味方に分かれたかつての師弟。反ファシストのクアドリ教授はマルチェッロを懐柔しようとする。ローマにいる反ファシズム活動家である仲間に手紙を渡すよう教授から頼まれるが、実は白紙の手紙だ。
教授と席を入れ替わったアンナ。ジュリアと談笑しながらも夫とマルチェッロのやり取りを冷ややかに盗み見る。
チャイニーズ・レストランの奥でのシーン。ここでまず教授暗殺への意志がゆらぐ。天井から下がった電灯が振り子のように揺れ、マルチェッロの心理状態を照らし出す。
トランティニャンのイタリア語を吹き替えたセルジオ・グラツィアーニのヴォイス・アクトは、怖じ気づいたこの場面のマルチェッロを過剰に演じてやや違和感がある。
2人のガールズ・トークが聞こえてきそうな自然な雰囲気のスナップ。1938年に実在したかのような女性たち。サンダはサンドレッリの5歳下だ。
エレガントなアール・デコの衣装とテーブルに並べられた中華料理や徳利のアンバランス。徳利には「松竹梅」と印刷されているので、彼女たちが呑んでいたのは日本酒だったのかも知れない。時代的には一致。