髪型の変化に見る「トラヴィス・ビックル、アイデンティティのゆらぎ」

トラヴィスの髪型は劇中コロコロと変わる。これは編集ミスなどではない。
シークェンスごとに変化するこの髪型が意味するものは何か。
本当にトラヴィスはアイリスと心を通わせていたのか。
スコセッシは明言を避けているが、シュレーダーはこの映画のことをこう言っている。
「空想を行動に移す男の物語だ」と。

■最初はこの髪型

 パランタイン大統領候補の選挙事務所スタッフ、ベッツィに一目惚れするトラヴィス。

■30分57秒後、アイリス登場

 偶然にもパランタイン議員を乗せたトラヴィス。その後別の客を降ろしたのと入れ替わりにラリったアイリスが乗り込んで来る。2人の、そしてスポーツとの最初の出会い。
 その後ベッツィにふられたトラヴィスは、孤独感と無気力に苛まれていく。

■51分20秒後、アイリスと再会

 ある晩、客を降ろし再び流し始めた途端にアイリスが車の前に飛び出して来た。その後はユルユルとキャブを転がしながら、アイリスたちを尾ける。
 このシークェンスでトラヴィスの頭髪が初めて短くなる。
 

■53分27秒後、なぜか髪伸びる

 同僚の紹介で拳銃の売人に会うことに。その後は、カラダ作りを始めたり、射撃練習をしたり、拳銃を仕込むアタッチメントを自作したりと、活力みなぎる生活が始まる。

■1時間01分30秒後、また短髪に

 パランタイン候補の遊説を見物に出かけ、大胆にもシークレット・サービスに話しかける。

■1時間05分48秒後、また髪伸びる

 「You're talkin' to me?」・・・・言わずと知れた名場面。ひとり鏡の前でイメージ・トレーニングする時は元の髪型である。

■引き続きこの髪型

 たまたま立ち寄った知り合いの雑貨店で強盗に出くわし、買った拳銃を初めて試す。そこで自信が付いたのか、部屋で拳銃を構え悦に入るトラヴィス。

■1時間11分48秒後、また短髪に

 街中で遊説するパランタイン候補を運転席から見守るトラヴィス。その後は部屋で両親に手紙を書いたり。

■1時間13分37秒後、髪、伸びてる

 せっかくの力を持て余しながら、部屋で悶々と過ごし、テレビを蹴り倒した後で頭を抱え込む姿がなんとも憐れだ。

■1時間15分25秒後、そしてまたこの頭

 アイリスを買うため、まずはスポーツに会う。もちろんアイリスとは遊ばない。助けてやるのだ。
 翌日にランチをする約束をして別れる。

■政府のために働いてるんだ

 タクシー・ドライバーは表向きで、実は政府の仕事をしている、とアイリスに話すトラヴィス。

■1時間29分29秒後、また髪伸びる

 車中ショットの後に続くのは、アイリスとスポーツがアパートで抱き合い、踊る場面。トラヴィスが彼らを見張ってるという解釈も成り立つシークェンス。トラヴィスの目を通していないスポーツとアイリスの姿こそが真実かも知れないのだ。

■1時間32分40秒後、そしてまた短髪に

 ブーツにオイルを塗り、ベッツィから突き返された花束を燃やす。
 アイリスに手紙を書き、100ドル札数枚を同封する。

■1時間35分00秒後、モヒカン刈り

 パランタイン最大規模の遊説会場に姿を現したトラヴィス。暗殺は失敗。

■そしてアイリス救出へ

 映画史に残るなぐりこみシークェンス。撃たれる前、スポーツはトラヴィスのことを全く憶えていない。アイリスは救出を喜ぶどころか、悲鳴を上げるばかり。

■最後は元の髪型に

 アイリスの父親からの礼状が父親本人の声で読み上げられる、という唐突かつ不自然な場面の後、あれほどの重傷を負ったにも関わらず職場復帰したトラヴィスの車に、ベッツィが乗り込んで来る。この後日談シークェンス全体に、かなり現実離れした雰囲気が漂う。