2008年ポスターマン映画大賞


総数

128本 2008年ほどランキングに困った年も珍しい。当初、1位『ノーカントリー』、2位『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』だったのだが、12月に滑り込んで来た『エグザイル/絆』にひっくり返されてしまった。こうなるともう決められない。「その年のベストを他人に委ねる」ことになった初めての年である。と言うわけで、師匠=滝本誠に決めてもらったのが以下のベスト3だが、これが真にしっくり来ている。うん、これでよし。
外国映画 84本
日本映画 44本


■ベスト10

2008年に公開された新作映画から10本を選びました。

1.『エグザイル/絆』 香港映画をベストにするのは『少林サッカー』以来。男たちの絆、少年時代の写真、というモチーフにおいて両者は似ている。この映画をもってジョン・ウー時代は完全に終わった。見終わってガンアクションを真似たくなった映画も久し振りだ。思い出すと熱くなる。何度も。
2.『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 『ノーカントリー』よりもこちらを結局2位にしたのは、P・T・アンダーソンの過去作品『ハード・エイト』と『ブギー・ナイツ』を見直して、彼の才能の豊かさと、筋の通った映画作りに感銘を受けたから。どれも「擬似親子」の話だ。アンダーソンは巨匠と呼ばれるようになるだろう。
3.『ノーカントリー』 どこまでも荒涼とした風景にジョシュ・ブローリンのショボくれた顔。こういうのがアメリカ映画なんだと思う。長らく見限っていたコーエン兄弟だったが、久し振りにコーエン流ノワールを堪能した。映画が原作を超えた珍しい例である。
4.『接吻』 年内にもう1度見てからランキングに臨みたかったが叶わず。脳内で熟成されたこの映画を思い出すにつけ、やはりとてつもない作品だったと戦慄を覚えている。小池栄子の見せる「静」と「動」の振り幅がラブストーリーとホラーの境界線を突き破った。
5.『イースタン・プロミス』 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』と双子の兄弟のような関係にある作品だった。立て続けに同じ俳優で、しかもギャング物を撮るとは、クローネンバーグのキャリアにおいては珍しい。ヴィゴ・モーテンセンのたたずまいとアクションに漂うフェティシズムが肝。
6.『ラスト、コーション』 新人女優タン・ウェイのブス可愛エロいルックスにクラクラ。アン・リーの演出にブレは無く、租界=上海を再現した見事な美術を得て、濃密なムードを湛えた異形の悲恋物語が展開する。あの時代の中国を描こうとした先達は、1人残らずこの映画に嫉妬したはず。
7.『ミスト』 主演のボンクラ俳優のせいだったのか、あの衝撃のラストは繰り返しの鑑賞に堪えるほどの力をどうやら持ってはいないことが2度目の鑑賞で判明。それでも初見の際に味わった衝撃と絶望感は忘れ難く。クリーチャー造形もこの年ではベストの出来。
8.『その土曜日、7時58分』 よく練られた脚本、巨匠による手堅くも若々しい演出は素晴らしかったが、なんと言ってもフィリップ・シーモア・ホフマン他俳優たちが火花を散らす演技合戦に圧倒された。もちろん冒頭の凄いベッドシーンも含めて。こんな映画若い奴にゃあ作れないだろ。
9.『ぜんぶ、フィデルのせい』 コミュニズムや女性解放運動の嵐が吹き荒れた70年代のパリを舞台に、コロコロ変わる大人たちの事情に得意のふくれっ面でせいいっぱい抵抗する少女の姿を、知的かつウォーミングに活写する。喜劇と政治性のバランスが良い。ラストでは思わずホロリとさせられた。
10.『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』 2008年に見たコメディ中最高の作品。『40歳の童貞男』ではオタク道と恋愛を天秤にかける間違いを犯したジャド・アパトウだが、今回はもっと前向きでブライトな方向を探し当てている。「妊娠モノ」としては『JUNO』なんかよりもはるかに優れている。セス・ローゲンが最高。
ちなみに11位以下は・・・ 『ホットファズ』、『トロピック・サンダー』、『アイアンマン』、『実録連合赤軍 あさま山荘への道程』、『潜水服は蝶の夢を見る』、『WALL・E』など(順位なし)。


■ベスト・アクター&ベスト・アクトレス

2008年最も輝いていた男優と女優。

ロバート・ダウニーJr. あんな元アル中のダメ男がヒーロー役を演じるとは誰が想像出来ただろう。『アイアンマン』があれほどまでに輝いていたのは、今まで見たことのないダウニーJr.がそこにいたからである。『トロピック・サンダー』もまた然り。現役オヤジにとって我々世代の復権とやらを目にするたびに「なんか違う・・・」と思って来たが、ダウニーJr.が鋼鉄のスーツを身に着ける姿は本当にカッコ良かった。ありがとう、ダウ兄。いや、オレと同い年か。
綾瀬はるか 『僕の彼女はサイボーグ』、『ICHI』、『ハッピーフライト』(こんなことなら『ザ・マジック・アワー』も見ときゃよかったか)・・・・傑作と呼べるものなど1本たりともないが、綾瀬はるかはいつだって可愛かった。特に「21世紀版『(原田知世の)時をかける少女』」と言ってもいい『僕の彼女はサイボーグ』ではキュートなばかりか、ダイナマイトなボディを「駆使」して、めくるめく桃源郷へと誘ってくれた。見ている間鼻の下が伸びっぱなしだった。  


■特別賞

『赤い風船/白い馬』

 1950年代にアルベール・ラモリスによって製作された、子供向けメルヘンの中篇映画2本立てが、デジタル・レストアされて現代に甦った。『赤い風船』は戦後の風情がまだ色濃いパリを、『白い馬』の方は地中海に面したカマルグという大湿原を舞台に少年たちの日常を描く。この2本はともに良く似ており、『赤い風船』の主人公は意思を持った赤い風船と、『白い馬』の主人公は野生の白馬とそれぞれ心を通わせた結果、ラストでは「この世界ではない世界」へと旅立つ。
 多くのファンタジーは過酷な現実と隣り合わせで成り立っており、アナザー・ワールドへの鍵はリアル・ワールドでの死と引き替えに与えられる。『赤い風船』のラストで、街中の風船が集まって少年を空の彼方へと連れ去ってしまうシーンに僕は強烈な既視感を覚え、目眩を味わった。『未知との遭遇』のラストにそっくりだったのだ。

 これを見たことがきっかけというわけではないのだが、2008年後半は古いフランス映画をいくつか見た。ジャック・タチの『僕の伯父さんの休暇』に『僕の伯父さん』、フランソワ・トリュフォーの『アメリカの夜』に『トリュフォーの思春期』、アニエス・ヴァルダの『幸福』など。特にタチには夢中になった。


■ワースト

2008年、ガッカリしたり怒りが爆発したりした作品たち。

 『団塊ボーイズ』

 『ダージリン急行』

 『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』

 『攻殻機動隊2.0』

 『スカイ・クロラ』

 『ダークナイト』

 『テネイシャスD』

 『ICHI』
別に順位はつけないけど、まあこんなところ。

『団塊ボーイズ』は、オヤジの復権を最大公約数的な描き方をしてるだけでもムカつくのに、演出から何から全部が子供だましのクソ映画。

『ダージリン急行』は、期待値が大きかっただけにあのグダグダ感に堪えられず。

『隠し砦の三悪人』は、文句ナシの駄作。

押井守はもうお終いかも知れない。

『ダークナイト』って、ホントどこが傑作なのかわかんないよ。ヒース・レジャーだってあんなカット割りじゃ浮かばれない。

『テネイシャスD』を見て思ったけど、ジャック・ブラックの顔も演技もかなり苦手。

『ICHI』は、綾瀬はるか以外の要素(共演俳優、脚本、撮影、演出)が全てダメ。綾瀬はるかのお色気が足りないのもまあ問題だけど。


この次はモアベターよ。
(by 小森和子)